予断を許さないウクライナ情勢だが、「日本も無関係ではない」と言うのは元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんだ。
「ロシアとウクライナの関係は、歴史、民族、宗教が入り組んでいて非常に根深い。言わば毒ヘビと毒サソリのにらみあいですが、実は日本にも影響するんです」(以下、「」内は佐藤さん)
背景にはロシアに対するウクライナの“愛憎”がある。
「帝政ロシア時代、ウクライナは『小ロシア』と呼ばれ、結びつきが強かった。現在もウクライナの東部、南部には日常的にロシア語を話し、ロシア正教徒である “親ロシア”の人々が多く住んでいます。
これに対し、ガリツィア地方と呼ばれるウクライナ西部(中心都市はリヴィウ)の住人は独特なカトリック教会(ユニエイト教会)のメンバーが多く、通常ウクライナ語を話します。第二次大戦後にソ連軍に占領された歴史から“反ロシア”感情が渦巻く地域で、非常に排他的な民族主義団体も存在します」
2013年11月、ウクライナのヤヌコビッチ前大統領が、それまで進めていたEU(欧州連合)との経済連携の強化を突如中断。これにガリツィア地方を中心とした反ロシア勢力が激しく抵抗し、首都キエフで十数万人規模の反対集会を続けた。そしてついに2014年2月23日、武力行使で政権を倒し、ウクライナに親欧米政権が誕生した。
ちょうど日本中が熱狂したソチ五輪の閉幕間際だったが、実は今回の政変には五輪開催が深く関係しているという。
「ロシアは日ごろからウクライナに大量の工作員を送り込んでいますが、ソチ五輪開催中は自国のテロ警戒のため、工作員を引き上げていました。反政府側はこの隙を狙い、政権打倒を目指した。五輪閉幕までに倒さないとロシアから猛反撃されるからです。平和の祭典の裏側では、政権打倒のための“血の五輪”がひそかに開催されていたのです」
政変後、ロシアのプーチン大統領はすぐさまウクライナ南部にあるクリミア自治共和国に軍隊を送って武力で制圧。ロシアの黒海艦隊の軍港(セバストポリ)があり、住民の多くはロシア系という、ロシアにとって重要拠点だからだ。
プーチン大統領に欧米が強く反発する一方、クリミア自治共和国の議会と住民は、ウクライナからの独立とロシアへの編入を求めている。この行方が最大の焦点だ。
「このままロシアがクリミアを併合すれば、“軍隊を派遣して領土を広げた”と国際社会から非難されます。日本も同調せざるを得ず、北方領土交渉は行き詰まるでしょう。一方でクリミア議会や住民の声を無視すれば、ロシア国内の“愛国派”がプーチン大統領を批判し、政権が不安定になります」
※女性セブン2014年4月3日号