北朝鮮による拉致被害者家族の横田夫妻が3月10~14日にモンゴル・ウランバートルで念願だった孫娘・ウンギョン(幼名ヘギョン)さん(26)との対面を果たした。
今回の「感動対面」では、安倍晋三首相の打算が読み取れる。消費増税を4月に控え、世論調査で初めて支持率が5割を切った(時事通信調べ)。横田夫妻の「孫との感動対面」を安倍首相が支持率浮揚のカンフル剤と考えていたことは想像に難くない。
北朝鮮としても、昨年末の張成沢・前国防委員会副委員長の粛清以後、中国との関係が悪化。窮地の金正恩にとって、経済支援獲得のために日本への接近は重要な外交テーマであった。
北朝鮮と日本の思惑が合致した形になる。面会の舞台として「モンゴルを最初に指定したのは北朝鮮。同国の交通手段は未発達なため、ウンギョンさんが逃亡しにくいとの判断も働いた」とソウル支局外信部記者はいう。
ただし、本当に互いの利害が一致しているかは定かではない。北朝鮮事情に詳しい公安関係者が語る。
「来年は、北朝鮮では朝鮮労働党結党70周年大会が開かれる見込みです。開催されれば35年振り。その席上で金正恩第一書記は、自らの『功績』を並べたがっている。そこで喉から手が出るほどほしいのは日本からの経済支援でしょう。しかし現実問題、日本は厳しい経済制裁を北朝鮮に科している。大規模な経済支援を決定するのは難しい」
ならば北朝鮮が目論むのは「安倍訪朝」ではないか──公安関係者はそんな見立てを披露した。
「日本との関係再構築を材料にして中国、韓国、米国の北朝鮮包囲網の歩調を乱し、譲歩を引き出そうとする狙いがある。一方の安倍首相にしても“小泉超え”をアピールできる。都知事選で小泉―細川連合を打ち破ったとはいえ、やはり2度の訪朝で金正日と渡り合い、拉致被害者を帰国させたという実績は大きい。安倍総理が金正恩に拉致解決を直接求めることを考えていても不思議ではない」
だが、拉致解決どころか「安倍を呼びつけた」という事実が金正恩の功績を飾り立てることになりかねない。民主党政権時代に拉致問題担当大臣を務めた松原仁代議士はこう話す。
「北朝鮮側は今回の面会で、横田めぐみさん事件についての幕引きとしたいという皮算用があるのではないか。日本側としてはこれはスタートに過ぎない。
拉致被害者だけではなく、特定失踪者(※注)の問題も残る。何をもってゴールなのかを日本側は明確に示す必要がある。今、安倍政権に必要なのは、綿密な計画と対北外交の帰結点の意思表示です」
安倍首相に拉致解決に向けたゴールが見えていないなら横田夫妻の家族愛を政治利用したとの誹(そし)りを受けても仕方ないだろう。
【※注】北朝鮮による拉致の可能性を排除できない失踪者。民間団体「特定失踪者問題調査会」がリストを作成し、昨年12月10日時点で約700人が認定されている。
※週刊ポスト2014年4月4・11日号