【書評】『教誨師』堀川惠子/講談社/1700円(本体価格)
【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)
民間の篤志宗教家がボランティアでその役を担う教誨師(きょうかいし)。受刑者に精神的救済を施し、死刑囚と対話し、死刑執行に立ち会う(現在、全国に1850人ほど)。守秘義務が課されるが、著者は本人の死後に公開することを条件に、半世紀にわたって教誨師を務めたある僧侶を取材することができた。
本書は教誨師になった経緯に始まり、死刑囚との対話や死刑執行場面など僧侶の貴重な体験を描いたノンフィクションである(僧侶は2012年に死去)。
何人かの死刑囚について詳細に記されているが、そこにあるのは諭され、悔悛し、悟りの境地に達するといった、ありがちなヒューマンドラマではない。なかには、追及されていない3件の殺人について自分が犯人であると告白した死刑囚もいた(妄想ではなく、ある程度の信憑性があるという)。最後までカネ儲けの夢を語り、拘置所内での処遇に対する不満をこぼし続けた女死刑囚もいた。
最も興味深いのは死刑執行場面である。初めて立ち会った執行では、死刑囚が徹夜で作った写経本を僧侶や刑務官に配るなど落ち着いた様子だったのに、僧侶は言葉を掛けられず、ひたすら読経することでかろうじて自分を保った。刑務官の中には震えて泣き出す者もいるという。
僧侶は自らが関わった死刑執行を「人殺し」と呼び、そのことの是非に苦しみ続け、後にアルコール依存症になった。〈死刑制度が持つ苦しみと矛盾を一身に背負って生きた人生〉だった。
死刑制度については、反国家主義イデオロギーや感情的厳罰論で語られることが多いが、本書が描くような現場を知ることが重要だろう。その意味で貴重かつ意義ある作品だ。
※SAPIO2014年4月号