【マンガ紹介】
『百姓貴族(3)』荒川弘/新書館/714円
『千年万年りんごの子(3・完)』田中相/講談社/610円
「働かざるもの食うべからず」&「俺にできる事はおまえにもできる」。このなんとも力強い家訓を掲げているのは、とある北海道の農家。そう、『鋼の錬金術師』『銀の匙』と次々ヒット作を生み出している人気漫画家・荒川弘の実家です。農業エッセイ漫画『百姓貴族』(新書館)では荒川自身が送った農家の暮らしが描かれていますが、その仕事ぶりはまさに家訓通りですがすがしいほど!
スケジュールはびっしり。家事・育児・家畜の世話・畑仕事・機械仕事・力仕事・経理・営業・販売・介護・趣味の園芸…と、八面六臂の働きを見せる農家の母にはひたすら敬服です。また、家業を手伝いながらどうやって漫画を描くヒマを捻出していたのか問われた作者の答えは、目つきが怪しくなりつつ「寝なきゃいいじゃん!!」。
収支と効率を考えて作られた仕事の段取りには、ほほーっと思わず感心してしまいます。ゆかいな農作物や動物エピソードがいっぱいで笑えるエッセイですが、やるべきことをガンガンこなす姿から働くパワーと知恵を分けてもらえそうです。
同じく農家を描きつつまったく違うテイストの物語を楽しめるのが、田中相『千年万年りんごの子』(講談社)。雪深いりんご産地の村に伝わる風習を破ってしまった若夫婦を描きます。
りんご農家に婿入りした雪之丞が妻・朝日に食べさせたのは、村に伝わる「禁忌のりんご」。食べた朝日は土着神の妻に選ばれてしまいます。異常なほど髪が伸び身長が縮む不思議な現象に悩まされる一方、見合い結婚だった雪之丞と朝日の絆は次第に深まっていきます。
都会育ちのメガネ男子・雪之丞は、捨て子という身の上もあって本音を言わないおとなしい青年です。だからこそ、完結巻の表紙に描かれた雪之丞の必死の形相には、これだけで涙が。
〈毎年兆す芽・草・花・実 くりかえしくりかえし その不思議これこそが 大いなる神の所業だど気付いだんだ〉〈我々は贖いきれない祝福の業火の中 生きておるのよ〉。あまりにも美しく力強い自然に圧倒されつつ、夫婦の切ない関係が心に残ります。
(文/横井周子)
※女性セブン2014年4月10日号