安倍政権にべったりのこの国の大新聞報道に失望するのはまだ早い。我が国には47都道府県それぞれの「現場」に根ざした地方紙が残っている。時に歯に衣着せぬ鋭い筆致で“中央政権”に真実を突きつけるジャーナリズムの「最後の希望」の姿がそこにある。
ジャーナリズム論の第一人者で、元立正大学教授の桂敬一氏は、地方紙の役割を次のように評価する。
「最近、政府や大企業に対してしっかりとモノ申しているのは、全国紙ではなく地方紙です。それが顕著なのがTPP(環太平洋経済連携協定)や消費増税問題。朝日・毎日と読売・産経では、イデオロギーが絡む憲法や外交などでは論調が違いますが、TPPや消費増税についてはどこも賛成しました。全国紙は大都市の消費地の目線でモノを見ているからです。それに対して地方紙は、農林水産業などで地方に生きる人々の立場に立っています」
桂氏によれば、今、言論機関としての矜持を保っているのは地方紙だという。
「全国紙は政権に懐柔されている気がします。特定秘密保護法の制定後、読売新聞グループ代表取締役会長の渡辺恒雄氏が政府の情報保全諮問会議の座長になったのがその象徴です。
また、第2次安倍政権は積極的に大手メディアに対して単独インタビューを持ちかけ、政権に批判的な朝日までが応じました。一方、地方紙による単独インタビューはほとんど見かけません。しかし、むしろそのことで健全な言論を保っているのです」
同じ中央に身を置く“身内”ゆえに政府に懐柔されやすい全国紙と違い、“よそ者”ゆえに政府に対して厳しい姿勢を取れるのが地方紙だ。たとえば、今も記憶に新しい歴代首相の「問題発言」を引き出したのはいずれも地方紙の記者だ。
2008年9月1日、福田康夫首相は辞任表明記者会見で、「私は自分自身のことは客観的に見ることはできるんです。あなたと違うんです」と気色ばんだ。質問の中で「総理の会見が国民には他人事のように聞こえる」と指摘し、その言葉を引き出したのは中国新聞の記者だ。
後任の麻生太郎首相は、連日のようにホテルのバーなどに通っていることについて、ぶら下がり取材で「庶民の感覚とかけ離れている」と批判されると、「引っかけるような言い方やめろ」と逆ギレし、「ホテルのバーは安全で安い」と開き直った。一連の発言を引き出したのは北海道新聞の記者だった。ともに全国紙記者が遠慮して聞けなかったことをずばり指摘した。
※週刊ポスト2014年4月18日号