「人の糞便そのものを移植するという治療法も注目されています」
アナウンサーのこのひと言に、スタジオ全体にどよめきが起こった。「え~っ!」と、ゲストの森公美子(54才)は目を白黒。司会の有働由美子アナ(45才)も思わず眉間にしわをよせ、「それは嫌だなあ」とつぶやく。
今耳にしたことを理解できないのか、假屋崎省吾さん(55才)は、きょとんとして動けない。3月17日放送の『あさイチ』(NHK)で、さまざまな菌を使った最新治療を特集したときのことだ。
実は今、腸内細菌を用いた研究が目覚ましく進化しているという。
『あさイチ』で糞便移植を紹介した麻布大学獣医学部教授で乳酸菌ゲノム科学、微生物学が専門の森田英利さんに話を聞いた。
「人間の腸内には1000兆個もの多種多様な菌がいて、顕微鏡をのぞくと花畑のように見えることから“腸内フローラ”と呼ばれています。この腸内フローラのバランスが食生活やストレスなどによって崩れると、潰瘍性大腸炎やアレルギーやぜんそく、肥満や糖尿病などさまざまな病気を誘発することはすでに知られていました。ならば、腸内細菌のバランスを整えたら、これらの治療が進むのではないかという研究が始まったのです」
2006年に腸内フローラのバランスによって肥満になるという論文が発表されたことにより、腸内細菌の研究は、劇的な進歩を遂げる。
冒頭の糞便をまるごと移植する治療法も、そのひとつだ。
「昨年、オランダのアムステルダム大学を中心とする医療チームが発表した、臨床実験の論文が話題の発端です。これは、病気の人の腸内細菌に抗生剤治療を施した後、すぐに健常な人の便を食塩水に溶き、鼻からチューブで注入して、十二指腸まで落とし込むというもの。
いってみれば腸内フローラをまるごと入れ替えるという方法です。抗生剤治療で再発する細菌性腸炎の患者30人中、80%が1回の糞便の注入によって治ったと結果が出ています。口から直接、注入すると反射で嘔吐してしまいますが、鼻からの注入はチューブを使うのでにおいは気になりません」(森田さん・以下同)
とはいえ、他人の便を鼻から入れるのは、有働アナのように「それは嫌だな」と抵抗がある人も多いのではないか。
「それはそうでしょうが、最近の傾向として、清潔であることや抗菌に過敏になりすぎて、腸内に必要な菌まで取り込めずにいることで、健康を害していることもあるのです。腸内細菌は自然に湧いてくるものではなく、口から入るもの。赤ちゃんが指を舐めたりするのも人間にとって必要な菌を腸管に取り込む作業なのです」
※女性セブン2014年4月17日号