開幕戦で緊張するのは投手とのイメージがあるが、打者も同じ──こう語るのは、1970年の開幕戦で、初回、初球を先頭打者ホームランした記録を持つ山崎裕之氏(ロッテ)だ。
「1本ヒットが出るまでは、不安で不安で仕方がない。開幕から3試合、4試合と快音がないと、俺はもうダメなんじゃないかと本気で心配になるんです。終わってみれば3割前後は打てるのに……、プロの打者というのはそういうもの。だから初球といえど、狙いに行くのは当然でしょう」
スポーツライターの永谷脩氏が語る。
「清原和博がかつて、打者と投手の心理について語ってくれたことがあります。投手、彼は桑田真澄を想定していましたが、1球で命取りになるので、常にボールから入る心理を持っている。打者はこの1球を逃したら二度と絶好球が来ないと思うから、何でもかんでも打ちに行く。開幕を迎えるプレッシャーも同じことだ、と」
オープン戦でいくら成績を残そうと、選手はペナントで結果が出ないと意味がなく、不安で仕方がない。むしろそれは、打者のほうが大きいかもしれない。実はあの王貞治氏も、「開幕して1本ホームランが出るまでは、このシーズンは1本も打てないのでは」と不安になっていたという。
そのため打者も、開幕に備えて思い思いの過ごし方をしていた。南海の主砲・門田博光氏は開幕が近づくと、1本1本バットに耳を当て、音を聞きながら選別していた。そのロッカーでの姿は、誰も近づくことのできない緊張感を漂わせていたという。
バットを大切にしたのは清原氏も同じ。開幕戦で使うバットを、大事そうに抱いて寝た。一方イチローは、どんなときも自分のルーティンを大切にするため、開幕前とはいえ、何か特別なことをすることはなかった。
1970~1980年代を代表する先頭打者、福本豊氏(阪急)はこう語る。
「開幕戦初打席の緊張は独特やね。凡打してベンチに帰ってくると、ジワっと汗が出る。唇がカラカラに渇いたし、それは何年やっていても同じやった。
ただ僕は初球は絶対に打たなかった。1球目から打って凡打したら、投手がものすごい楽やろう。それも開幕戦でお互い緊張しとるのに、楽させたらアカン。そう思ってたからね」
先頭打者はもとより、クリーンアップの責任も重い。ヤクルト、阪神で4番を打っていた広澤克実氏もまた、開幕での不調が記憶に残っている1人である。
「記憶に残っているのは、巨人に移籍した年の開幕戦の初打席、足の震えが止まらなかったこと。波を打つような力のないスイングで三振したのをよく覚えています。巨人では、開幕から極度の不振でしたから」
※週刊ポスト2014年4月18日号