オランダ・ハーグで3月25日(現地時間)に開かれた日米韓首脳会談では終始不機嫌な様子だった朴槿恵(パク・クネ)韓国大統領だが、その前々日に行なわれた習近平・中国国家主席との首脳会談では全く違う態度だった。
今年1月、中国黒龍江省のハルビンで初代韓国統監・伊藤博文を暗殺した安重根を抗日英雄として讃える「安重根義士記念館」が開館したことについて朴氏は、満面の笑みで「韓中の友好協力の象徴になる」と語り、習氏もそれに応じて今度は日中戦争当時の朝鮮人抗日部隊「光復軍」の石碑が、同部隊の拠点があった西安で完成予定だと明らかにした。
光復軍が旧日本軍と戦闘した記録はないにもかかわらず、韓国の国定教科書ではアジア各地で中国軍などと協力して抗日戦を展開したことになっているのはさておき、中韓首脳が歴史問題を通じた「抗日」で新たに共同戦線を組もうとしていることは見逃せない。
朴氏が攻勢に出るのは、安倍晋三首相の体たらくを見れば無理もない。ハーグでの中韓首脳会談に先立つ3月14日、安倍氏は衆院予算委員会で河野談話について「見直すことは考えていない」と明言。これは安倍氏の韓国に対する二度目の敗北だ。
一度目は第一次安倍政権時代。慰安婦の強制性を否定しようとして非難が巻き起こると、2007年4月27日の日米首脳共同記者会見で「(元慰安婦が)極めて苦しい状況におかれたことについて、申し訳ないという気持ちでいっぱいである」と述べ、当時のブッシュ米大統領が「私は安倍首相の謝罪を受け入れる」と応じた。世界は安倍氏が「謝罪」したと受け止め、「慰安婦=性奴隷」という嘘が補強され世界に拡散された。
これまで繰り返し調査が行なわれてきたにもかかわらず、旧日本軍が女性を強制連行した客観的証拠は見つかっていない。一方で、それを首相の立場でストレートに表明しても国際社会が受け入れないことは一度目の敗北に学んでいればわかるはずだ。だが、安倍氏は同じ失敗を繰り返し、またも準備不足と外交オンチを露呈した。
見直し撤回の報を受け、韓国大統領府報道官は「幸いに思う」という朴氏のコメントを発表。日韓首脳会談についても「日本が真剣な姿を見せれば対話しない理由がない」と、嘘をでっち上げておきながら、“謝るなら会ってやってもいい”という態度を示した。そうした経緯があったからこそ、朴氏は満を持して中国との反日歴史共闘路線に本格的に踏み込んだわけだ。
※SAPIO2014年4月号