山本浩二、田淵幸一、鈴木啓示、藤田平、大矢明彦、若松勉、堀内恒夫、山田久志、有藤道世……。団塊世代の球界OBには錚々たる面子が名を連ねる(他にも福本豊、江夏豊、衣笠祥雄、加藤秀司ら名球会メンバーは数多い)。球史に輝く「黄金世代」だ。が、彼らには「失敗監督世代」という不名誉な呼び名もある。
星野監督は昨年、楽天で初の日本一を経験したものの、山本、田淵両コーチとともに日本代表を率いて惨敗した北京五輪の印象はいまだ強い。山本氏は3連覇が懸かった昨年のWBCでも敗れた。また鈴木(近鉄)、藤田(阪神)、大矢(ヤクルト、横浜)、若松(ヤクルト)、堀内(巨人)、山田(中日)、有藤(ロッテ)の各氏はいずれも、芳しい成績を残せずに監督の椅子を逐われた。現役時代の栄光とは裏腹に、なぜか「名監督」が見当たらないのだ。
自身も1947年生まれの団塊世代である野球評論家の江本孟紀氏は、「我々は指導者に向かない世代だった」と言い切る。
「何しろ田舎でも中学が1学年20クラス近くあった。その中で野球部のレギュラーになるには、他人のことなんて構っていられない。レギュラーになればお山の大将で、名門高校となれば“俺が一番”というヤツばかり。そこで勝ち抜いた者だけがプロになった。
努力は人一倍したけど、下積みの経験なんてない。だから、自分より下手な者にアドバイスしないし、チームプレーにも関心が薄い。代わりがいくらでもいるという時代を生きてきたから、埋もれている選手の発掘にも、全盛期を過ぎた選手の再生にも興味がない。人を育てたり、チーム戦術を組み立てたりするのは不得手なんです」
彼らの特徴として「権威好き」を挙げるのは、ヤクルト、西武の監督として優勝4度、日本一3度を成し遂げた名将、広岡達朗氏(1932年生まれ)だ。
「少年時代に長嶋(茂雄)の全盛期を見たせいか、この世代には巨人至上主義が多いんです。個性が強そうに見えて、“巨人を倒してナンバーワンになる”というのではなく、“巨人に入りたい”“憧れは長嶋さん”と公言して憚らない。自分より強い者には媚びるタイプが多いように思う」
再び江本氏の話を聞こう。
「僕らの同級生で昭和22年会というのを作ったんですが、2009年の初会合以来、1度も開かれていない(笑い)。よく言えばマイペース、平たく言えば我が儘で自分勝手。監督やコーチより、言いたい放題の解説者が向いているんだろうね」
一流選手の大豊作でありながら、指導者としては超不作。すでに名将と呼ばれるOBは、彼らの世代を飛び越えて落合博満・元中日監督や原辰徳・巨人監督の世代に移っている。
※週刊ポスト2014年4月18日号