安倍政権におもねってばかりの大新聞報道に失望するのはまだ早い。我が国には47都道府県それぞれの「現場」に根ざした地方紙が残っている。
組織の大きな全国紙では、記事についての質問や苦情は“読者センター”に回され、お役所的に処理されがちだが、組織の小さな地方紙では直接記者室に届くことが多い。そのため地方紙では、記者と読者の距離が近く、現場の声が紙面に反映されやすい。
それを物語る紙面はいくらでもある。たとえば、今年1月、神戸新聞が10回にわたって掲載した連載〈借上復興住宅 20年目の漂流〉。阪神・淡路大震災で自宅を失った高齢者や低所得者のために兵庫県などが用意した借上復興住宅には今も4700世帯が暮らすが、来秋以降、入居から20年の返還期限を迎える。
連載では、退去についての「お知らせ」を受け、「退去期限までには死んでいることが私の願い」と語る年金5万円の79歳など、近づく返還期限に怯えながら暮らす高齢者の姿が描かれる。20年前の震災禍が今も終わっていないことを切実に伝える企画だ。
東奥日報(青森県)が今年2月末から連載を開始した〈転機のコメ〉シリーズも、地方紙ならではのものだ。国は今年度を「改革元年」と位置づけ、農業の成長産業化を図り、全農家対象だった米価変動補填交付金を廃止する。それによって農家のセーフティネットは弱体化する。紙面は、そのことで戸惑う農家の声を丹念に拾い上げている。
外交という国家レベルの問題を、その足下から取材し、紙面化する試みもある。島根県の地方紙である山陰中央新報の一連の竹島問題報道がそうだ。同紙は今年1月6日付の紙面で、GHQ統治下にあった1947年6月、外務省が、竹島の領有権をアメリカに対して主張した文書が、今、同国の国立公文書館で公開されていることをスクープした。同紙は、韓国の不法占拠が始まる前まで続いていた竹島周辺での漁業の様子など、全国紙が取り上げないきめ細かな報道を行なっている。
「『竹島で日本人が漁を行なっていた』という厳然たる事実は、韓国側の主張を突き崩す論拠になるとして外交関係者からの評価も高い。韓国への配慮からか国も竹島問題については及び腰ですし、全国紙も強い主張をしない。一連の報道は、ある一人の名物記者が担当している。“国がやらないなら”“全国紙が取り上げないなら”、俺がやってやろうという気概が感じられます」(同社関係者)
北海道新聞は、2011年10月から丸2年間、284回にわたる〈日ロ現場史〉という北方領土問題についての連載を続け、漁民たちの苦難の歴史を取り上げた。領土問題が国家間の外交課題である以前に、市井の人々の生活に深く根ざすものであることを教えてくれる。
※週刊ポスト2014年4月18日号