昨年7月9日、米グレンデール市議会が慰安婦像設置を決めた際、推進派のフランク・クィンテロ市議は設置の意義を説いた上で演説をこう締めくくった。
「私が興味深く見ているのはおよそ36もの日本の地方議会が『意見書』を採択していたことである。一部を紹介すると宝塚、清瀬、札幌、福岡、小金井、三鷹……などだ。だから我々は正しいことをしていると考える」。
大メディアはほとんど報じないが、全国の地方議会で続々と「慰安婦問題で政府の誠実な対応を求める意見書」が採択されている。どれも奇妙に似通っていて、旧日本軍が女性を強制的に性奴隷にしたとして謝罪を求めた2007年米下院決議、慰安婦問題の解決を促す国連の各種委員会勧告などの存在を指摘し、政府に河野談話を尊重した「誠実な対応」を求める内容である。
2008年3月の兵庫県宝塚市議会を皮切りに、意見書採択は現時点で少なくとも43件に達している。採択された意見書は地方自治法99条に基づき衆参両院議長や総理大臣、担当大臣などへ送られる。送付先に決まりはなく、法的拘束力もない。しかし多くの国民は存在すら知らないこの意見書が、冒頭のグレンデールのように「日本人自身が謝罪と賠償をすべきと認めている証拠」として都合よく利用されてしまうのだ。
なぜこのような意見書が全国に広がるのか。各地の採択プロセスを検証したところ、複数の市民団体が議会に意見書採択を求める請願運動をしていたことがわかった。そのうちの一つが「新日本婦人の会」だ。同会の笠井貴美代中央本部会長は共産党の笠井亮衆院議員の妻。井上美代元会長が共産党参院議員に転じた例もあり、共産党と密接な関係にあることは間違いない。
東京都文京区に中央本部を構える同会は全国に都道府県本部、支部を持つ。最高決議機関である全国大会の決定には〈「慰安婦」問題解決へ(中略)地方議会で意見書採択など草の根の行動で世論を広げましょう〉(2013年11月採択)とあり、中央本部の方針のもとに各地で他団体と連携して請願に動いていると考えられる。
43議会のリストを見ると自治体の規模は沖縄県多良間村のような人口1200人強の村から大都市まで多岐にわたるが、地域的には北海道、京都など革新系勢力の強いエリアに偏っている。これは市民団体が、慰安婦問題への政府の対応に批判的な議員が多いところを戦略的に狙っている結果だろう。都道府県議会としての採択第1号となった京都府議会は典型的で、民主、公明、共産が意見書に賛成。自民は反対したが過半数に届かないため採択された(昨年3月)。
最近では採択されるか不透明な地域にも活動の幅は広がっている。愛媛県松山市では新日本婦人の会を含む市民団体グループが意見書採択を求める活動を続けているが、“成果”は今のところ出ていない(今年3月の市議会で意見書は否決された)。
※SAPIO2014年5月号