日本の農業総産出額は8兆5251億円(2012年)。これだけの規模を誇りながら、日本の農業は弱いというイメージが強い。しかし、高品質を武器に海外進出を独力ですすめる農家も少なくない。
海外に打って出るなら、現地の流儀をきちんと理解する必要がある。
熊本県益城町の農業生産法人「松本農園」は2006年よりニンジン、ゴボウ、サトイモなどを香港に、2007年から切り干し大根をEUに輸出する。プロジェクトマネージャーの松本武氏はこう話す。
「海外に進出して、最大の壁は食の安全性だと気づきました。いくら日本流に『減農薬』などと訴えても海外では通用しません。海外市場を本気でめざすなら、食の安全性を客観的に担保する必要があるんです」
その指標となるのがヨーロッパを中心に世界110か国以上に広がる農業生産管理の認証「グローバルGAP」だ。農場や農薬の管理など250項目をクリアすると与えられる国際認証で、松本農園は2007年に国内最多品目数で取得し、2012年には日本で初めて最新版の認証を取得した。
「それまで日本の農産物を扱うのは現地の日系企業がほとんどでした。一方で世界で圧倒的な販売力を誇る小売店のウォルマートやカルフールなどは、生産者に国際認証の取得を求めています。現地での小売りを増やすには、その認証が必須なんです」(松本氏)
さらに松本農園は農作物の「見える化」をめざして生産履歴をホームページで公開している。農作物のラベルに記されたロット番号を入力すれば、生産者や生産場所、何月何日にどの農薬を使用したかなどを一瞥できる仕組みだ。グーグルマップと連動しており、農場の航空写真まで確認できる。
「世界中のバイヤーや消費者が、何がどう作られたかを見られるシステムです。トレーサビリティ(生産履歴)が重視される世界の市場で強力な武器になります」(松本氏)
国際認証とITを武器とする松本農園の現在の輸出量は全生産量の1%だが、今後は30%まで拡大をめざす。
※SAPIO2014年5月号