今年に入り、韓国で「南北統一」議論が盛んになっている。朴槿恵大統領は「統一は北の核廃棄が前提」とするが、核の保有は父・朴正煕の悲願でもあった。統一の経済メリットを声高に叫ぶ朴槿恵の欺瞞を暴く。
韓国が南北統一で手に入れられるのではと期待しているものがある。核兵器だ。米軍は北朝鮮崩壊を想定した「作戦計画5029」を策定している。現行の計画では、北朝鮮の体制崩壊に伴う動乱、紛争が生じた場合、まず在韓米軍が北の核施設を押さえ大量破壊兵器を奪取することになっている。
だが、近年、韓国では核武装論が再燃している。昨年2月に韓国ギャラップ社が発表した核武装に関する世論調査では、「核兵器を保有すべき」と答えた人は64%にのぼった。朴大統領のセヌリ党にも核武装論者は多い。12年の大統領選に出馬表明した鄭夢準氏もその1人だ。
韓国には核兵器開発の前科がある。
朴槿恵大統領の父・朴正煕は1975年、極秘裏に核再処理施設の導入を計画。米国の猛反発により断念に追い込まれた。韓国は91年に北と「朝鮮半島の非核化宣言」を出したが、その後、北の核開発に対抗し、再び極秘裏に核開発に着手。2000年代初頭には、NPT(核拡散防止条約)に違反した核燃料濃縮実験が発覚し、IAEA(国際原子力機関)の強制査察を受けている。
もちろん、それらは北の核の脅威が前提となっている。しかし一方でネット上には「統一したら韓国は核保有国になれる」などという書き込みが溢れている。
メディアも関心を示す。2011年のダボス会議で中国の外交専門家が「統一韓国が核兵器を保有せざるを得ない現実を認めなくてはならない」と発言したことを朝鮮日報も中央日報も大きく報じた。
朴大統領は3月24日にオランダ・ハーグで開かれた「核サミット」に出席。北に朝鮮半島の非核化を呼びかけたが、言葉通りには受け取れない。「朴槿恵の最大目的は父親の歴史的評価を高めること」と早稲田大学国際教養学部教授の重村智計氏は指摘する。いざ統一となれば政治家として尊信する父の遺志を引き継ぎ、核開発に乗り出す可能性も捨てきれない。重村氏が続ける。
「仮に核保有の野心があっても、米国と中国がそれを許すはずがない。統一となれば莫大な経済的負担が圧し掛かり、韓国は諸外国の援助に頼らざるを得なくなります。米中は経済援助と引き換えに、核保有を断念させるでしょう」
※SAPIO2014年5月号