数多くの作品に主演してきた俳優・歌手の杉良太郎は、厳しい姿勢で作品と取り組むあまり、共演者やスタッフとの軋轢も多かったと言う。しかし、軋轢を生んでもなお、完璧を目指すことをやめなかった杉が語った言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる。
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杉良太郎は1974年にNET(現テレビ朝日)で放送された『右門捕物帖』に主演している。この役は映画では嵐寛寿郎が飄々としたキャラクターとして当たり役にしていた。が、杉はこのイメージを一変させ、孤独な影のある、苛烈な男として演じた。また殺陣も合気道や柔術を使った、素手で投げたり殴ったりする斬新なものであった。
『右門』や『新五捕物帳』など、杉主演の時代劇の多くはただの勧善懲悪ではない、どこか救いのなさの漂う哀しい作品が多い。これらは、杉自身が脚本や演出にアイディアを出しながら練り上げられたものだった。
「歌手出身で基礎もない、名優の息子でもない、どこで湧いたか分からないボウフラ役者がこの世界で生きていこうとすると、『身分が違う』とイジメのようなものにも遭いました。そこに抵抗して、激しくやってきました。そしてある日、自分流を作ろうと思ったんです。『杉演劇』を確立させようと。杉演劇とは様式美とリアリズムの混合です。時代劇独特の形を自分にしかできないものにしていきました。
脚本家には新聞ネタから、今実際に起きている社会問題を書いてもらいました。こんな理不尽なことがあっていいのかと、視聴者に問題提起するという。流し目をする中年女性キラーで男の敵とかよく言われましたが、実はその逆なんです。媚びを売る気はありませんでした。ただ、時間を割いて来てくれるお客さんには応えなきゃいけない。それがプロだという意識は強い。
立ち回りのカット割りも夜中まで自分で考えていました。役者は口出すなという意見もあったと思います。けど、視聴率を背負っているのは主役なんです。視聴率が下がった時に『お前に人気がないからだ』と降ろされるのは監督でも脚本家でもなく、主役。ですから、自分の納得のいくものをやろうとした。ただのプロではなく、プロ中のプロでなきゃいけないんです」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。
※週刊ポスト2014年4月25日号