2035年、日本の人口の3人に1人は65歳以上の高齢者という時代がやってくる。老人が老人を介護する“老老介護”はすでに社会問題となっているが、今後、増加が予想されるのが“息子介護”のケースだ。
これは、80歳を過ぎて老いた親の介護を40代後半~60代前半の息子、つまり男性が一人で担うというもの。
2010年の国民生活基礎調査によると、「息子介護」の比率は全体の12%。現在、推計44万人の“息子”が親の介護にあたっているという。
妻や夫、娘や嫁に比べると少ないと思われるかもしれないが、この30年で6倍近くに増え、近年はさらなる増加傾向にある。背景にあるのが日本の家族構造の変革だ。
『迫りくる「息子介護」の時代』(光文社新書)の著者、平山亮氏(東京都健康長寿医療センター研究員)はいう。
「親の介護を妻に任せることができなくなったんです。まず現実問題として、結婚しても夫の親と同居する夫婦は少ない。夫の親と別居している妻の多くには、夫の家に嫁いだ“嫁意識”がない。地理的にも親の実家とは離れています。
また、妻にしても自分の親の介護で手一杯なケースが多い。娘の側の優先順位は、夫の親より、自分の親です」
加えて、いまや“嫁”がいない男性は珍しくない。40代以上の男性の未婚者は、2005年の約267万人から、2010年には340万人超となった。
男性たちは、もはや介護から逃れられなくなった。そこには、様々な弊害が生まれている。たとえば、高齢者虐待だ。介護者が被介護者を虐待するケースは2012年に約1万5000件も報告されているが、加害者の4割は、被害者の息子だった。同じ男性でも被害者の夫の比率は2割以下だ。
「夫が妻を介護する男性介護と、息子が親、特に母親を介護する息子介護とは分けて考える必要があります」と平山氏はいう。
多くの“息子介護”経験者は排泄、いわゆる下の世話に最も抵抗感を覚えるという。
生理の処理の苦労を知らず、育児にも携わっていない男性はそもそも、排泄物やオムツ・パッドなどの扱いに慣れていない。
「特に被介護者である親が母の場合が大変。息子にとって、母親の性器を見たり洗ったりするのには、高いハードルがあります」(介護関係者)
妻のそれと向き合うのとは訳が違う。それでも、実の親を放置するわけにはいかない。相談できる相手もおらず、それがますます、自分を追い込んでいく。
※週刊ポスト2014年4月25日号