消費増税による買い控えで不況風が吹き始めたさる4月11日、日本経済新聞は朝刊1面トップにこんな見出しを掲げて明るい景気見通しを報じた。
「小売業7割が増収増益(今期予想) 増税の影響、下期回復」
同紙の集計によると、スーパーや百貨店など主要小売業の7割が1年後の業績を増収増益と予想しており、増税不況は夏以降急回復するという内容だ。
日本を代表する経済紙の報道とあって、「増税の影響は軽微なんだ」とホッとした個人投資家も少なくなかったに違いない。実際、この日は個人投資家の信用取引の買い残が大きく膨らんだ。
ところが、株価の動きは逆だった。日経平均株価は始値の1万4027円から終値1万3960円へと67円下落し、「1万4000円の壁」を割り込んだのだ。
この報道と現実のギャップに誰より慌てたのが安倍晋三首相その人だ。「総理は株価急落が止まらないことに『いったいどうなっているんだ』と非常に神経質になり、急遽、日銀の黒田東彦総裁との会談をセットして説明してもらうことになった」(官邸筋)というのだ。
まさに日経は“赤っ恥”をかいたわけである。見通しを誤ったのはこの日だけではない。
4月3日に株価が1万5000円の大台を回復すると、「世界株高 リスク回避一服」「日経平均1万5000円 NY株最高値圏 米景気回復に期待」(4日付)と煽ったうえ、翌週(7日)から株価が反落に転じても、「市場では、最近の株高を受けた一時的な反動安と冷静にとらえる向きが多い」(8日付)となおも強気の見方を変えなかった。しかし、肝心の日経平均はあれよあれよとわずか1週間で1103円もの下げを記録したのである。
日経の“株価裏返し”報道といえば、“ブラックサーズデー”と呼ばれた昨年5月23日の暴落当日の朝刊紙面も忘れられない。前日の株価は1万5627円という6年ぶりの高値水準となり、同紙は「途切れぬ株高に、ベテラン証券マンは『こんな相場は、もうなかなか来ないだろう』と話す」と書いた。その途端、株価は1日で1000円以上暴落。いまに至るまで“こんな相場”は来ていない。
「日経が『上がる』と書けば株価は下がる」という“伝説”をつくった報道だった。
※週刊ポスト2014年5月2日号