4月10日、日本野球機構(NPB)は、公式戦で使用する統一級の反発係数が規定より高かったと発表した。いわゆる“飛ぶ”ボールを使用していたことが明らかになったのだ。15日に緊急会見を開いたミズノによれば、今回の“飛ぶボール”が生まれた原因は、「ゴム芯に巻く羊毛(ウール)が乾燥していたため、製造工程で巻き方がきつくなり、結果としてボールが固くなって、反発係数が規定よりも高くなった」ためだった。
反発係数が0.001上昇すると、飛距離は約20センチ伸びるという。昨季の平均反発係数は0.416で、今回の検査結果の数字は0.426。単純計算すれば、今季の打球は平均で約2メートル伸びていたことになる。フェンス直撃の打球もホームランになると考えると、「選手にとっては死活問題」(中堅選手)だという意見も、もっともに聞こえる。
しかし球界の重鎮たちは、そんな選手たちの声に違和感を覚えている。
「そもそもボールが“飛ぶ”とか“飛ばない”とか、そんなことで騒いでいることが間違っている」
こう切り捨てるのは、「フォークの神様」と呼ばれた215勝投手、杉下茂氏だ。
「変にボールに基準を作った結果、起きた騒動だろうが、我々の時代では考えたこともない。だっていくら飛ぼうが飛ぶまいが、相手には打たれなければ問題ないんだから。投手が低目にボールを集められるよう技術を磨けばいい、それだけなんです。
しかし新聞を見ていると、今の投手は“こんなボールではやっていられない”などといっている。飛ぶといってもたかだか数メートルでしょ。やけに繊細なように印象づけられているけど、そんな微妙なものでも、気にするようなものでもないから(笑い)。打者は打者で、芯にも当てられないくせに何をいっているの、という感じですよ。とにかくこの程度で騒ぎすぎですね」
今回、「昨年よりも飛ぶボール」だったことが発覚した際、原因は保管状態にあるのではないかなどと、盛んに議論された。熊崎勝彦・コミッショナーは、
「ボールは生き物。誤差は出るという指摘はあるが、NPBには品質の管理責任がある。細かく、高度にやっていく必要がある」
と話したが、杉下氏はこれについても一言。
「昔からボールが乾燥したり湿ったりして、状態が変わるのは当たり前。制御できるようなものじゃないんです。梅雨時の甲子園での試合など、ボールがやけに重く感じたものですよ。それでも、“あ、今日は何だか重いな”と思うだけで、皆何の問題もなくやってきたんだから」
※週刊ポスト2014年5月2日号