ライフ

【書評】くまモンを展開の熊本県知事が自らの異色経歴綴る本

【書評】『私がくまモンの上司です ゆるキャラを営業部長に抜擢した「皿を割れ」精神』/蒲島郁夫/祥伝社/1380円+税

【評者】山内昌之(明治大学特任教授】
 
 ゆるキャラのなかでも、熊本県のくまモンは全国屈指の名士であろう。愛嬌とユーモア、真面目なアピール力とたしなみ、どれをとっても好感度上位のゆるキャラであろう。くまモンは県営業部長の辞令をもらって庁議にも出席しているらしい。

 蒲島郁夫県知事の本気度は凄い。いまでは全国区となったくまモンは、九州新幹線の全線開業に合わせて誕生した。2013年10月には天皇皇后両陛下の前でキレのある踊りを披露して皇后さまからお言葉まで頂戴した幸せ者である。テレビでほほえましい光景を見ていた私は、両陛下が本当にくまモンをお好きなのだという印象を受けたものだ。

 熊本県の限られたPR予算のなかでくまモンはよく頑張っている。くまモンの赤いほっぺ紛失事件には笑ってしまった。くまモンの赤い頬っぺたは、トマト、イチゴ、馬刺し、あか牛、鯛など県特産品を象徴化している。

 つまり、緊急記者会見までした県知事の狙いあるいは洒落は、ほっぺが落ちるほど美味な熊本の特産品を食べたからくまモンのほっぺが落ちてしまったという意味だったのだ。さすがに東大教授から転身した政治学者にして政治家だけのことがある。ユーモアとエスプリの活用はさすがである。

 くまモンの創造やほっぺ紛失騒ぎを思いつく蒲島氏と、行政官出身のエリート知事との感性の差異は、大学を出ずに農協職員からアメリカのハーバード大学の政治学博士に転身した異色の経歴や苦労の数々など、人生経験の違いに尽きるだろう。

 高卒後、最初に就職した会社と家との往復に7時間をかける辛抱強さ、アイダホ州の牧場で夜明け前から夕方まで続く厳しい労働など、どれをとっても日本の若者を大きく成長させる体験だったに違いない。

 授業に手を抜かず、県政のムダを少なくし、自分の給料をカットする知事の使命感は、くまモンの爽やかなイメージにもつながる。そういえば、くまモンと蒲島知事の顔や雰囲気はよく似ている。リーダーの在り方を教えてくれる本でもある。

※週刊ポスト2014年5月2日号

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン