六大学野球という最高峰の舞台で、甲子園を経験したエリート選手らと対峙し続けてきた東京大学野球部。数多の番狂わせを演じてきた彼らも、2010年秋季シーズン以降、勝ち星に恵まれておらず、4月20日にはリーグ史上ワースト記録となる「70連敗」に並んだ。早大野球部に在籍経験のあるスポーツライター・安倍昌彦氏は、今の東大野球部の“停滞”を象徴する場面を目撃したと話す。
「今春の開幕戦の試合前、球場の外で東大の選手たちがアップするとき、レギュラー選手の一人が堂々と大あくびをしていた。六大学で野球をやれるのは凄いことなのに、その選手は価値をわかっていない。そんな場面が象徴するように、今の東大は気持ちがたるんでいます」
そして、こう付け加えるのだ──「昔は違った」。
例えば、昨春から指揮を執り始めた浜田一志監督の現役時代(1983年春季~1986年秋季)、東大は“強かった”。浜田氏の2学年上には、東大史上5位の8勝を挙げた投手の大越健介氏(現NHKキャスター)がいた。
以前、大越氏と浜田氏が雑誌で対談したとき、大越氏は「球場全体を『東大が勝つんじゃないか』という雰囲気に持っていくのが大事」と話し、浜田氏は「相手はやりにくかったでしょうね、アレは」と応えた(『週刊ベースボール』2013年4月7日増刊号)。
対戦する側も“東大の強さ”を感じていた。前出・安倍氏は、「僕が現役だった頃、選手も監督も『東大はやりにくい』と言っていた」と振り返る。
他大学は「東大は頭がいいから、何か考え、何か仕掛けてくるに違いない」と脅威を感じ、実際、東大はいろいろなことを仕掛けてきた。たとえば、守備陣形の穴をつくセーフティバントをする。ホームベースぎりぎりに立ち、ボールを見極める……。そうした“嫌らしさ”が相手チームにはボディブローのように効いたのだという。東大に勝って当たり前。だからこそ、「もし負けたら」と身を固くする他校選手もいた。
ちなみに、大越氏が現役だった4年間で東大はチームとして24勝を挙げた。
「その頃に比べると、今の東大野球は正直すぎる」と、安倍氏は指摘する。
「近ごろの東大には、直球で140キロ出る本格派の投手がいる。これは昔なら考えられないこと。ただし、哀しいかな、プロを狙う一流選手からすれば140キロ台は“打ち頃”の球。ならば、その逆をつけばいい。エリート選手たちは、緩いボールを打つ練習をしていないから盲点なんです」
※週刊ポスト2014年5月2日号