讃岐うどんが単なるブームから日常的な食事の選択肢に定着して久しい。日本の津々浦々に讃岐うどんのチェーン店が進出し、うどんといえば讃岐との印象が強い。だが、全国には地域色豊かなうどんが多数存在している。近年「食都」として注目される九州は福岡にスポットをあてたい。
福岡で麺といえばこってりしたとんこつラーメンを思い浮かべるが、この地では「うどん」こそ日常食である。博多華丸・大吉、そして大御所タモリなど、福岡出身の芸能人がテレビでこぞってそう主張している。
博多うどん最大の特徴は「コシの無さ」だ。讃岐うどんが全国に浸透し、うどんにおいては「コシの強さ」が賞賛されることが多いが、この地ではそうではない。
福岡は古くからの商人の街であり、茹で時間も短く消化も良い多加水麺が好まれたという説もあれば、製麺所からうどん店に運ばれる間に延びただけだという説もある。
いずれにしても、昆布をはじめイリコやアゴ(飛び魚)、店によってはウルメイワシやアジまでも用いる海の幸の旨味をたっぷり含んだだしとの渾然一体とした美味しさを尊ぶには、この柔らかい麺は最適だ。
有名店の筆頭は「かろのうろん」。「かどのうどん」がなまって、この店名となった。かつて永六輔があの独特の語り口で、この店を紹介した浅田飴のCMを覚えている読者も多いのではないだろうか。
ここで明太子をトッピングするのは観光客のみ。丸天(甘く丸いさつま揚げ)かごぼ天(ごぼうのかき揚げ)で決めたい。この二種類の具こそが博多うどんの代表選手だ。入れ放題のネギも適量丼にのせる。そしてかしわ飯も一緒に頂く地元スタイルを全うしよう。
文■梶原由景 撮影■石井雄司
※週刊ポスト2014年5月2日号