角田美代子(享年64)が主導したとされる尼崎連続変死事件。2011年11月に凶行が発覚し、審判が近づいていた2012年12月12日、角田は獄中で自ら命を絶った。結果、事件の謎は解き明かされることなく、捜査終結も宣言された。しかし、事件を2年間追い続けたジャーナリスト・小野一光氏が核心を知る角田美代子の夫・鄭頼太郎(てい・よりたろう、64)の肉声を得た。それは、留置場で頼太郎と同房にいた田崎浩之(仮名)からもたらされた。キーマンの獄中告白から事件の闇に迫る。
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韓国で生まれたという頼太郎は、田崎に対してもほとんど自分の両親や生い立ちについて語ることはなかった。田崎は「自分から言わんいうことは、けっこう可哀想な環境やったんちゃうかな」と呟いてから、口にした。
「小さい頃、日本の学校で韓国人やて馬鹿にされたとは話しとったわ。実際、字もあんまり読めへんねん。喋る日本語かてちょっとおかしいとこあるしな」
一方の美代子も両親には恵まれていない。左官の手配師をやっていた暴力的な父親と、以前は花街で働いていた放任主義の母親に育てられ、中学時代は深夜徘徊で何度も補導された過去を持つ。
そんな、互いに家族の破綻を抱えた二人の結びつきだからか、不可思議なことではあるが、頼太郎はいまだに美代子を慕っているという。その証として、田崎は頼太郎から“あること”を頼まれたそうだ。
「神戸市内の霊園にある、美代子の“お骨”をな、管理しとくためのカネを立て替えておいてほしい言われたんや」
その際に、頼太郎は美代子に対する気持ちを口にしている。
「頼太郎曰くな、『かあちゃんはこんだけみんなに迷惑かけて死んだけどな、だけどわしはかあちゃん好きやねん。ちょっと尻触ったら(トイレ用洗剤の)サンポール目に入れられたりしたけどな、惹きつけるもんがあってね。
だからわしが刑期を終えて外に出たら、遺骨を散骨してあげたいんや。散骨の場所はかあちゃんが好きやった沖縄の万座毛の近くの海がええな』いうことや。わしから見ると、マインドコントロールまではいってへんかもしれんけど、離れられへん存在みたいに思っとる感じがしたわ」
沖縄の万座毛といえば、美代子が橋本久芳さんに崖から飛び下りる自殺を強要した場所である。いくらなんでも悪趣味だとしか思えない。だが、それに抵抗を覚えない性格だからこそ、頼太郎は数々の殺人を目の当たりにしても、一切の痛痒を感じなかったのだろう。
(文中敬称略)
※週刊ポスト2014年5月9・16日号