「私は毎日、高血圧の薬を飲んでいるが、本当に必要なのか」
「医者のいう基準値があやふやだなんて、今まで考えたこともなかった」
健康診断や人間ドックで用いられる「健康基準値」について報じた本誌前号の発売直後から、編集部にはこんな問い合わせが殺到している。健康基準値とは、血圧やコレステロール値などの数値が範囲内にあれば「正常」で、外れていれば「異常」とされるもの。私たちが健康なのか、病気なのかを見分けるための重要な指標である。
本誌前号が取り上げたのは、4月4日、日本人間ドック学会が公表した新しい基準値についてだ。150万人のドック受診者のデータを分析して導かれた数値なのだが、健康診断などで現在用いられている数値と大きく異なっていることが、物議を醸している。
血圧でいえば、現在は上(収縮期血圧)が129以下、下(拡張期血圧)は84以下が正常値であるとされる。しかし、新基準値では、上が147以下、下は94以下が正常値だという。つまり、いままでは高血圧に悩んでいた人でも、新基準に当てはめれば「セーフ」という人が少なくなく、日本全体で“病人”が2270万人(20歳以上)も減る計算だ。
そもそも、現在用いられている基準値は、それぞれの臨床系の学会のガイドラインなどをもとに定められてきた。例えば、血圧ならば日本高血圧学会、コレステロールならば日本動脈硬化学会といった具合だ。
しかし、そうした各学会の基準が実態にそぐわないと、指摘する専門家は少なくなかった。東海大学医学部名誉教授の大櫛陽一・大櫛医学情報研究所長が話す。
「現基準値は性別も年齢も分かれていない項目が大半。だが、欧米の複数の調査研究では性差や年齢差で様々な疾患に対するリスクが異なることがわかっている。
例えば、米マサチューセッツ州フラミンガムの住民を追跡調査した研究では、男性と女性、かつ5歳刻みで心疾患に対するリスクが異なることが明らかになった。強引に1つの基準にすれば、男性か女性か、若者か高齢者かどちらかの基準範囲がずれてしまい、早期の異常が見逃されたり、無駄な薬を飲まされたりされかねない」
また、健康基準値が厳しくなればなるほど“患者”の数が増える。それはそのまま、医師や製薬メーカーなど医療に携わる人たちの利益になるので、あえて厳しく設定されてきたのではないかという疑念もある。そうした中で、基準値を大幅に緩和した今回の新基準値が注目されているのだ。
※週刊ポスト2014年5月9・16日号