多数の高校修学旅行生らが犠牲になった韓国・セウォル号の沈没事故をめぐる対応では、改めて日本と韓国の文化的な相違が浮き彫りになった。日本人と韓国人の感情表現には、現代の若い世代も隔たりを覚えている。在日コリアンで日本に帰化したノンフィクションライターの朴順梨氏は、みずからの体験をこう語る。
「母方の祖父が亡くなったとき、葬儀で祖母は棺にしがみついて大泣きしていました。いつまでもしがみついて泣き続けていたので、葬儀屋さんが『奥さん、そろそろ時間ですから……』と祖母を棺桶から引きはがして出棺した。まるで韓流ドラマのワンシーンのようでした」
朴氏は群馬生まれの群馬育ちなので、こういった韓国の儒教文化に触れると違和感を覚えるという。初めて韓国に行ったときにはこんなこともあった。
「ホテルマン同士が喧嘩しているところを見ました。決してグレードの低いホテルではなかったんですが、エントランスのところで制服を着たホテルマンが相手の胸ぐらをつかんでやりあっていてビックリした。
知人の在日の人に聞いたのですが、『韓国人は喧嘩をする場合、周りに見せるのだ』と。自分の味方になってもらいたいから、あえて派手に見せるそうです」
ここからも、激しい感情表現がある種の戦略であることがわかる。朴槿恵大統領が、日本批判のために米国はじめ世界にアピールを繰り返すのも、こうした文化的背景が影響しているのかもしれない。
ただ、今回の沈没事故では、韓国社会に起きている大きな変化も表出している。新潟県立大学政策研究センターの浅羽祐樹准教授はこういう。
「犠牲者の多くが修学旅行中の高校生だったことが大きなポイントです。1997年の通貨危機以降、韓国は非常に厳しい競争社会となり、格差も拡大している。韓国語では我々(WE)のことを『ウリ』と言うが、生活に余裕がなくなっているため、ウリという言葉が示す範疇が民族から一族、そして家族へと、どんどん狭まっている。核家族化が進み、社会保障も日本ほど充実していないので、韓国では投資対象が『子供』になっている。その子供が被害者となったため、多くの韓国人は自分の家族と重ね合わせて衝撃を受けているのです」
※週刊ポスト2014年5月9・16日号