4月、堂々セ・リーグ首位を走り続けた広島カープ。就任5年目を迎えた野村謙二郎監督の指揮も安定感を見せるようになり、23年ぶりのリーグ制覇へ邁進している。過去の優勝チームを振り返ると、ある傾向が見えるとスポーツライターは話す。
「監督は、自分の現役時代のような選手を作りたがります。わかりやすくいえば、ヤクルト時代の野村克也監督が古田敦也を育てた例です。いわば、自分の現役時代と似たタイプの選手がいるかどうかが、その監督の命運を握っていると言えます」
プロ野球の歴史を見ると、優勝チームには、その法則が多く当てはまるという。
「V9巨人の名捕手だった森祇晶監督が西武の黄金時代を築いたときには、伊東勤がチームを引っ張った。長嶋茂雄監督が第1次政権で前年最下位からの優勝を果たした年、張本勲を日本ハムから獲得していた。かつての自分のような中軸を任せられる打者を持ってきたわけです。
長嶋監督は第2次政権では、落合博満をFA(フリーエージェント)で中日から獲得します。すると、落合在籍時、巨人は3年で2回の優勝に輝いた。落合は選手年齢的には晩年ともいえましたが、勝負強さでチームを牽引した。長嶋監督の現役晩年のような働きを遂行したわけです。
その後も、長嶋監督は4番打者を大量に補強しましたが、どの選手も思うような成績を残せなかった。そのため、落合の日ハム移籍後は優勝から遠ざかりました。しかし、手塩にかけて育てた松井秀喜が4番に定着した2000年、日本一に輝きます。ダイエー時代の王貞治監督も、小久保裕紀を4番として使い続け、優勝しています」
クリーンナップ出身監督だけではない。それは他のポジションでも同様だ。
「1989、1990年とリーグ連覇した巨人では、“悲運のエース”と呼ばれた藤田元司監督が斎藤雅樹、桑田真澄、槙原寛己という三本柱を見事に育て上げた。1988年、星野仙一監督が中日を優勝に導いたときには、燃える男・郭源治をストッパーに抜擢。郭はマウンド上で吠えまくった。星野監督自身、優勝した1974年に最多セーブに輝いていますからね。
阪神が日本一となった1985年は、ランディ・バース・掛布雅之・岡田彰布という強力打線ばかりに目が行きますが、名ショート・平田勝男の守備なしに猛虎フィーバーは語れません。現役時代、“牛若丸”と呼ばれた吉田義男監督と似たタイプの平田がいたからこそ、快挙が成し遂げられたのです。例を挙げれば切りがないほどです」(同前)
そういう意味で、今年の広島には優勝の可能性が十分あるという。
「現役時代の野村監督は、3割・30本塁打・30盗塁のトリプルスリーを達成した巧打者でした。そして今の広島にも俊足でパンチ力のある若い選手が複数育っています。昨年盗塁王に輝いた丸佳浩、常人離れした守備範囲を見せる菊池涼介、さらには野村監督の背番号7を受け継いだ堂林翔太もいます。監督にとっては、自分と似たタイプの選手が複数いるわけですから、采配もふるいやすいはずです」(同前)
広島の若い選手たちがシーズン通してグラウンドに“赤い旋風”を巻き起こせば、優勝の可能性はグッと高まるだろう。