テレビやネットでも人気の『人狼ゲーム』。市民役プレイヤーの中に紛れ込んだ“人狼”を探し出すゲームで、市民は人狼と思う人を話し合いで決め処刑、一方、人狼は夜になると市民を1人ずつ食べていく、という心理戦が繰り広げられる。もともとは海外のカードゲームが日本に持ち込まれてネットゲームとなり、一部のコアなファンから人気が拡大。160万ダウンロードの人気を誇るスマホアプリ『人狼ゲーム~牢獄の悪夢~』をプログラミングからデザインまですべてひとりで制作したのが、ゲームクリエイターで広告プロデューサーの鈴木教久さん(37才)。その小説版『人狼ゲーム~人事の悪夢~』(大和書房)を上梓した鈴木さんに、開発の裏話やハマる人続出のゲームの魅力について聞いた。
――開発当時はあまり知られていなかった人狼ゲームをアプリに選んだ理由とは?
鈴木:人の“本音”に着目していた時に、人狼ゲームをアプリにしたら面白いんじゃないかと思ったんです。ちょうどこの時、脳波をとることで相手の本音が耳の動きに表れる『necomimi』という猫耳のカチューシャのディレクターをやっていて、この体験会をやったんです。列に女子に混じって中年男性が並んで待っていたのですが、自分の番がくるとモジモジして、勧めても着けないんです。でもさらに勧めると、「いやいや…」と言いながらも着けるんですよ(笑い)。本音がわかるツールを着けにきているにもかかわらず嘘をつきたがるんです。一方で、人狼ゲームは嘘をつくゲームだというのに、狼になった人は罪悪感で嘘がつけなくなるわけですよね。人間ってすごく面白いなと思いまして。
――ダウンロードは現時点160万超えということですが、こんなにヒットすると?
鈴木:思わなかったですね。人数を4人以上集めなくてはいけないので、多人数で楽しむことが好きなパーティーピープルしかできないだろうと思っていましたから。だから、カードに描く人物はこだわっておしゃれにデザインしました。初め人物画は1960年代のストリートスナップの顔や体をコラージュしていたんですけど、結果的に本人だとわからないところまでいじるので、途中からはモデルはぼくがお風呂場でポーズを取って写真を撮ったり、廊下でハサミ持って写真を撮ったりしていました(笑い)。
――なぜ人狼ゲームにハマるのだと思いますか?
鈴木:初めてゲームをやった時の衝撃、つまり人を疑ったことがない人が人を疑うことへの罪悪感や、嘘をついたことがない人が嘘をついて、人に疑われ、さらに嘘をつき通して勝ったときの嬉しさと罪悪感、「普段はこんなに嘘つかないんだけど」と言い訳したがる気持ちとか、ゲームと実生活とがないまぜになった、心に負う傷でしょうか(笑い)。ぼくも初めてやったときはやっぱり傷を負って、こんなゲーム二度とやるかと思いました(笑い)。
――人狼ゲームのキーポイントは?
鈴木:例えば、「多数決」です。小学校の時からみんなで多数決をしますよね。多くの人が、多数決の結果はみんなの善意が集まったものだと誤解しています。でも実際は違う。わかりやすい例では、国政選挙でも事前の人気の予想などがあって、それを見た上で誰に投票するか決めていますよね。人狼ゲームでも同じで、ある程度、誰に票を入れるかが見えていたり、どういう順番で誰に投票するかを見た上で投票先を選んでいます。いわゆる無駄票や死票に入れても意味がないので。多数決は実は、手を挙げる瞬間よりも手を挙げる前のほうが重要なんです。そういうことをゲームを通して知る人は多いと思います。
――普段意識していないことに気がつくと。
鈴木:そうですね。同時開票する多数決と、徐々に開票しながら投票する多数決では結果は大きく変わってきますし、いずれのルールでも、多数決で勝つための戦略があるということです。日本人は基本的にはいい人なので、ずる賢い人になかなか勝てないところがありますよね。アプリと同時進行で作っていた『nekomimi』の工場が中国にあって、メーカーのかたとやりとりをしていたのですが、ぼくも含め、日本人って相手を疑っていると思われたくないから、確認ができないんですよね。「大丈夫ですよ、ちゃんと仕事をやりますよ」と言われると、「ではよろしくお願いします」と表面上、信頼しているようにふるまってしまう。
けれど海外の人と仕事をする上では、相手を信用するためにきちんと質問しなくてはいけないんです。「大丈夫です」と言われたら、じゃあ「この部分は大丈夫ですか?」とお互い確認をとっていくステップが必要ですが、日本人はそれをせず一方的に信じて、返ってきたリターンがよくなかったからと相手のことを信じられなくなりがちです。ですから人狼ゲームをやることで、信頼するために確認することは悪じゃないし、みんながハッピーになる方法だよねと知るきっかけになればいいなと思います。
――人狼ゲームを仕事に活かせる日が来るかもしれないですね。
鈴木:アプリを作って意外だったのは、学生にすごく流行ったんです。ゆとり世代と呼ばれる人たちの後に、賢く戦略を立てられる“人狼世代”が増えてきたら、特に海外と交渉する仕事が増えてくる中では日本にとって非常によいのではとは思います。
――最後に、人狼ゲームの効果的な使い方って?
鈴木:彼女や妻と何年もずっと一緒にいると、相手のことを知った気になっていますよね。距離がこれ以上近くならないと思ったら恋心は冷めてしまいますよね。でも、人狼ゲームで嘘をつくことをやってもらうと、実は相手のことを全然知らなかったことに気づきます。お互いに相手の知らない面や、本当はどういうことを思っているかをこういうツールでまた思い出してもらうと、パートナーとの関係性もまた楽しくなると思いますよ。
【鈴木教久(すずき・かずひさ)】
iOSアプリ『人狼ゲーム~牢獄の悪夢~』作者。広告代理店にて、開発プロデュースを行う傍ら、個人のプロジェクトとして、アプリの制作・プロモーションを全てひとりで行う。2011年4月にリリースした『人狼ゲーム~牢獄の悪夢~』は、総ダウンロード数160万、プレイ人数はのべ4600万人。日本での人狼ゲームブームの火付け役となり、人狼ゲームアプリのデファクトスタンダードとなっている。近著にその小説版『人狼ゲーム~人事の悪夢~』(大和書房)。現在、AppStoreで配信中のパズルゲーム「ファイナルトレジャー」で新たなブームを狙う。