意外かもしれないが、中小企業白書(2012年版)によれば、「起業」した男性が最も多い年代は60~64歳。起業というと最近では若い世代の台頭が目立つが、実際には60歳以上のシニア起業家の活躍も目立つのだ。
東京・中央区に本社を置く金属加工の製造販売を請け負う「ロイエット」は、年商4億円を誇る。社長の池田眞一氏(67)は、元々機器加工メーカーに勤めていた。40代で管理職、47歳で取締役と出世街道をひた走ってきたが、57歳で早期退職。老後は海外に家を購入し、セカンドライフを満喫しようと思っていた。
ところが退職後すぐ、ある企業から「コンサルタントとして来てくれないか」と声をかけられ、国内に留まることに。大手電機メーカーから金属加工の仕事が続々と舞い込み、ついに会社を設立した。
結果的に、退職から半年も経たずに起業したことになる。
「従業員は20人。前職の同僚や同級生など、リタイア世代の中にいる確かな技術を持つ人を雇用しています。技術力には自信がある」
と池田氏は語る。大手メーカーとの密接なつながりがあったため、事業は右肩上がりで拡大できた。
ただし、池田氏と同規模の会社を起こす人は決して多くはない。むしろ、多くがリスクを取らないことを第一に考えるため、設備投資を控え、事業規模は小さいほうを好む。儲けは少なくても仕事を長く続けたい──こうした姿勢を“ゆる起業”と呼び、多くのシニア起業家のスタイルになっている。
大手商社で、海外企業を相手に化学品の貿易業務を担当していた福島賢造氏(65)は、63歳で定年を迎える際、「今までの経験を生かせる貿易関係の仕事ができないか」と模索していた。
目をつけたのは大手が敬遠しがちな小規模取引。通常、大手商社はタンカー単位で1万トン、2万トンという大規模な取引をするが、コンテナ単位の小規模取引を求めるクライアントもいる。特に化学品は種類が多く、商品によって取引単位や規模もさまざま。ニッチな市場だが、福島氏は「手堅いと感じた」という。
定年から半年ほどの準備期間を経て貿易の仲介を行なう「KFトレーディングカンパニー」を設立。前勤務先や現役時代のクライアントがすぐに顧客になり、事業はスムーズに進んだ。初年度の年商は3000万円。
「実際の利益は年商の数%。大きく儲けることは考えていません。旅行や外食代程度になればいい。当面は事業を拡大せず、1人でできる範囲でやるつもりです」
※週刊ポスト2014年5月9・16日号