ハマる人が続出という人気の『人狼ゲーム』。戦略が見えたり、その人の本性があぶりだされたりするということで、資質や適性を見るために企業の新人研修や採用にも取り入れられているほど。160万ダウンロードの人気を誇るアプリ『人狼ゲーム~牢獄の悪夢~』を単独開発したゲームクリエイターの鈴木教久さん(37才)に、人狼ゲームの戦略を活かす仕事術について聞いた。
――人狼ゲームを仕事に活かすとしたら?
鈴木:人狼ゲームは相手との距離感の掴み方、コミュニケーション能力を伸ばすにはいいツールだと思います。人狼ゲームは相手と強制的に距離を詰めていくゲームですが、経験すると、一旦ぶつかったとしてもフォローはできるということと、どこまで詰めていいかがわかってくると思います。社内の人と人狼ゲームをやれば、苦手な人や距離を置いていた相手のことを知ることができ、コミュニケーションが円滑になるケースもありますよ。
――ヒエラルキーの中で人は強い人の圧力に負けがちですが、その中で自分の意見を通したりうまくやるには?
鈴木:コミュニケーションでいちばん大事なのは、基本的に相手になじむことだとぼくは思うんです。市民役のプレイヤーが自分たちの中に潜伏している人狼を探すことを目的とした人狼ゲームでは、人狼は市民の中になじむように努めます。それと同じように、例えば就活生なら、OBから会社の常識や社風などを聞いて、あたかも相手の会社の社員のようになじんだ状態から面接に行けば合格率は、格段に上がると思うんです。
上司との会話でも、優秀な部下というのは上司のロジックに合わせている。上司が理解しやすく、さらに上司がその上の上司に説明しやすい話し方をしています。ところが、若手は自分のロジックで会話をして、それを上司側に翻訳してもらおうとしていますね。人狼ゲームで市民になりすます能力があるのなら、上司のロジックに合わせる練習になると思いますし、それを上司とのコミュニケーションにも活かせるんじゃないかと。
――集団では多数の意見にひとり反した意見をすると圧倒的に負けてしまいます。そこから逆転するには?
鈴木:小説に似たようなポイントを書きましたが、人は立場の強い人、偉い人にとって何が得かを考えた上で動くことですよね。仕事の中で、多数意見に自分の希望が負ける流れなら、その多数の人たちの得になることを提案して、そこに自分の希望を入れこんでいけばいいのだと思います。そう言うと腹黒い話に思われてしまいますが、実際の仕事において、自分都合の提案は相手に受け入れられないのは当然で、相手が喜ぶことは何か?と考えて動けば、結果的に相手にとっても自分にとっても利益があがるものですよね。
――入社試験に人狼ゲームを採用した会社もありますが、有効な方法だと思いますか?
鈴木:就活生にその会社が何を求めているのかを考えさせる、いいきっかけになっていると思います。“何をもって勝ちなのか”ということです。就活生にとっての勝利は、人狼ゲームに勝つことではなく、その会社に入ることですが、その人狼ゲームの中でどうふるまうのがその人の勝利なのかという別の目標が出てきますよね。グループ内でのコミュニケーション能力や性格、資質、適性などを知るためにいい方法だと思います。
――入社後に新人研修でやらせる会社もありますね。
鈴木:いろんな形の研修があると思いますが、人狼ゲームのいいところは“スピードが早いところ”です。何かを一緒に作れと言われたときに、たいていがみんなでお見合い状態になって、誰がリーダーシップをとるかなど役割分担がなかなか決まらないケースが多いですよね。それと比べて、人狼ゲームは目的が明確です。この中に悪いやつがひとりいて、それを洗いださないと自分たちが脱落していくという展開がスピーディーに進むので、相手の真偽を見定めるためのコミュニケーションを早める効果はあると思います。
――どうしても素が出てしまいますしね。意外な一面を知ることができたり。
鈴木:そうなんですよね。相手を疑うってすごくハードルが高い行為なので、じわりじわりと相手を知っていくよりも、入社してすぐに一番ハードルが高いことを遊びとしてやらせるというのは、その後、仕事のスピードアップにもなると思います。
【鈴木教久(すずき・かずひさ)】
iOSアプリ『人狼ゲーム~牢獄の悪夢~』作者。広告代理店にて、開発プロデュースを行う傍ら、個人のプロジェクトとして、アプリの制作・プロモーションを全てひとりで行う。2011年4月にリリースした『人狼ゲーム~牢獄の悪夢~』は、総ダウンロード数160万、プレイ人数はのべ4600万人。日本での人狼ゲームブームの火付け役となり、人狼ゲームアプリのデファクトスタンダードとなっている。近著にその小説版『人狼ゲーム~人事の悪夢~』(大和書房)。現在、AppStoreで配信中のパズルゲーム「ファイナルトレジャー」で新たなブームを狙う。