本は人を創り、人を変え、人を育てる。時間に余裕があるときにじっくり読んでみたい本、ベスト3をコラムニストの勝谷誠彦氏が厳選してくれた。
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三島由紀夫も絶賛しているけど、『楡家の人びと 第1~3部』(北杜夫/新潮文庫)は日本の近代文学の金字塔。戦後に書かれた小説のなかで、もっとも優れた作品だと思います。
戦前から戦後という激動の時代の流れとともに、北杜夫さん一族の生涯や歴史を描く壮大なストーリーで、“本物の小説”とは、まさにこういうものでしょう。奇をてらわず王道をいく。ヘタな文章を読んだ後に読み返して、リセットしているぐらい、自分の芯となっている一冊です。
小学校4年生ぐらいにこの作品と出会って、北先生のミーハーなファンになりました。高校時代は生徒会長と生徒会誌の編集長を兼任していましたが、無謀にも巻頭エッセイを北先生にお願いした。電話番号を調べて「もしもし、勝谷と申しますが…」と。すると快く、『若い人たちへ』というエッセイを書いてくれた。何ともうれしかったことを覚えています。
『春と修羅(愛蔵版詩集シリーズ)』(宮沢賢治/日本図書センター)は宮沢賢治の詩集。ぼくはもともと詩から文学の道に入ったので、リズム感や理系的な言葉遣いなど、賢治の文体には影響を受けた。
この作品には〈わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈の ひとつの青い照明です〉という一文があるけれど、“有機交流電燈”といった硬いイメージの理系的な言葉にも叙情性を感じさせる。感性に響くから好きです。
卓越した宗教書のひとつじゃないかと思うのが『空海 般若心経秘鍵』(空海 著、金岡秀友 訳・解説/太陽出版)。262文字の般若心経の解説書。空海という人は驚くべき才能だと思います。1年足らず唐にいただけで真言密教の神髄を全部持って帰ってきたわけですから。今でいうブロードバンドのような存在といえる。
ぼくにとって、読書は空気を吸うようなもの。活字がないと窒息してしまう。家には何万冊とあって、壁は全部本で埋め尽くされている。本のために家を建てたくらい(笑い)。
日本人としての基本的な教養は読書からしか得られないとぼくは思います。教養を身につけるには、まず古典。読書は古典からです。時間があるときに、ぜひ挑戦してみてください。
※女性セブン2014年5月8・15日号