涙にはストレス解消の効果があるといわれるが、泣ける“ツボ”は人それぞれ。今回は、42才看護師が医療の道を志すきっかけとなった感動話を紹介します。
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17才の時、両親が離婚。DVの父との暮らしが始まり、毎日暴力をふるわれました。家にいるのが嫌で、いつも近所の川を橋の上から眺めていました。
その日も、橋にいると、20代くらいの青年が「死にたいの?」と声をかけてきたのです。気づくと、私は橋から身を乗り出していました。無意識でした。青年の言葉にわれに返ったものの、父の暴力が続くなら、このまま死んでもいいと思いました。それで、「死にたいか、生きたいか、わからない」と言うと、彼が笑いだし、「うらやましい」なんて言うんです。振り返ってよく見ると、彼は車いすでした。
「君は、生きることも死ぬことも選べるんだね。ぼくは死ぬしかないのに」とニッコリ。彼は続けて「もし死んだらここにきて、ぼくに魂をちょうだい。ぼくは生きて、やりたいことがたくさんあるんだ」と、住所を書いたメモを置いていきました。
彼の家は、その川の近くでした。いつも座っている橋のベンチから、彼の家が見えました。訪ねようか迷ったまま数週間が過ぎたある日、その家で、葬式が行われているのが見えました。まさかと思い訪ねると、例の青年の葬式でした。
その時、家から出てきた女性が私を見ると、あっと言う顔をし、「あなた、いつもあの橋のベンチに座っている子でしょ。息子は部屋からいつもあなたを見ていたのよ。この前なんて、突然、外に出ると言うから驚いて…。帰ってきたら“ぼくは自分の命は救えないけど、別の命を救えたかも”なんて、うれしそうに言うもんだから」と、教えてくれたのです。私は初めて、自分に生きてほしいと言ってくれる人がいたことを知りました。
あれから私は医療の道へ進もうという目標ができました。目標があるので、死ぬわけにはいきません。
※女性セブン2014年5月8・15日号