世の中に出回る数多くのダイエット法を試しては失敗を繰り返す人は多い。なぜ同じ方法を実践しても成功と失敗が分かれるのか。ダイエットにまつわる言説を科学的に検証した。
テレビ、雑誌などで連日取り上げられ、即効性が評判の「炭水化物抜きダイエット」。三大栄養素(炭水化物、たんぱく質、脂質)のうち炭水化物(糖質)だけをカットする単純な方法だ。摂取カロリー自体は変えなくてよいので「満腹ダイエット」とも呼ばれる。
まずはそのロジックのおさらい。米やパンなどに代表される炭水化物は体内でグルコース(ブドウ糖)に分解され、吸収されて血糖値が上がる。
すると血糖値を下げるはたらきを持つホルモンであるインシュリンが分泌され、余分な糖質を脂肪などに変えて体内に蓄積させる。だから糖質を避ければインシュリンの分泌が抑えられて脂肪がつきにくくなるし、エネルギー源として糖質の代わりに体脂肪が使われるという話だ。
この方法のリスクを指摘するのは新潟大学名誉教授で水野介護老人保健施設長の岡田正彦博士。
「昔から何度も流行しては廃れてきた減量法ですが、『三大栄養素』の一つを大幅に削れば様々なかたちで健康に害を及ぼす可能性がある。例えば炭水化物で摂っていたカロリーを肉などたんぱく質と脂質で補ったら、痩せたとしても血中のコレステロールが高くなり動脈硬化や心筋梗塞のリスクが高まります」
即効性があるからといって「炭水化物を一切食べない」というような極端なやり方は特に危険だ。脳の主たるエネルギー源である血糖が低下すれば、体の中では筋肉を分解して肝臓で糖質に作り変えるなどの現象も起きる(糖新生)。脂肪でなく筋肉が分解されてしまうのだ。
毒舌キャラで再ブレイクしたタレントの坂上忍がブログで炭水化物を減らすなどして1か月で5㎏減量したと報告しているように、うまくいく例もある。ただ、これは他の減量法にも言えることだが「ダイエットを始める前にどんな食生活、行動スタイルだったのか」は人によって違う。だから「同じことをすれば痩せる」とは限らない。
「必ず特盛りご飯を注文していた人が普通盛りに減らすのであればいい。要はいかにバランスよく、適切な水準までカロリーを減らすかということに尽きるのです」(同前)
※SAPIO2014年5月号