ブタやカメの親子、ヒヨコなどの布おもちゃを丁寧に手縫いで仕上げていく。京都市内の自宅で教室を開くかたわら、自治体が開催する子育て講座の講師やキット製品の販売などで、趣味の手芸を収入にしているのは、布おもちゃTA-TAN代表・大江委久子さん(55才)。その原点は、温かみのある、手作りの布おもちゃの販売だった。
「収入は、多い時で年間200万円くらいに。本も出版しました。自己資金2万円で、ちょっと布きれを買って始めたことが、こんなに長く続くなんて自分でも驚きです」
小さいころから手芸が好きだったものの、仕事にしようと思ったことはなかった。結婚後、パン店や学習塾講師などアルバイトを転々とし、出産後は専業主婦に。やがて子供を2人授かり、育児に追われる毎日。
充実していたが、成長する子供を見て、ふと「自分はこのままでいいのか」と焦りを感じたという。
「私が31才、子供が3才と1才のときでした。パートに出られる時間もなく、じゃあ自分の“持ち札”を生かして仕事を生み出せないかと思って、ある時、経験した仕事、サークル活動、習い事、趣味…を全部ノートに書き出してみたんです」
それらを眺め、家族も自分も楽しめ、今できることを条件にふるいにかけたら、布おもちゃ作りだけが残った。
「あまりにも平凡な答えでしたが、だからこそ無理なくできる、と思えました」
育児の合間に少しずつ布おもちゃを作りためていった。だが、当時はまだネット店舗などなく、販売先がない。
「近所に、私がおっぱいマッサージで通っていた助産院があったんです。そこの助産師さんに頼んで、待合室に置いてもらい、委託販売を始めました」
最初は月に3つ売れるかどうかで、月1000円をやっと超えるくらいの収入。製作時間のねん出にも苦労した。
「2人の子供がお昼寝する1~2時間しかとれません。子供たちにぐっすり寝てもらうため、午前中はできるだけ外へ。お昼寝の合間につくれるおもちゃの数はたかが知れていました。でも無理なく自分のペースで作れたから、長続きしたと思います」
やがて子供たちが幼稚園、小学校に進むにつれ、製作時間が長くとれるようになり、自宅で教室を開くことに。だが、どんなに忙しくても夫が帰ってくるまでには終わらせ、夕方以降は主婦業に集中した。最近では、布おもちゃの材料キット販売も始めている。
「子供はどんなに下手でもお母さんの手作りを喜ぶもの。キットをきっかけに、少しずつ手作りの意味、楽しさに気づいてくれたら」
※女性セブン2014年5月8・15日号