今日も日本全国の劇場で様々な商業演劇が行われている。杉良太郎は、テレビや映画の世界だけでなく、商業演劇でも長く活躍してきた。長年の座長経験から培われた杉が語った役者の生死に関わる言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる。
* * *
杉良太郎は長年にわたり商業演劇の第一線で座長公演をしてきた。が、実際に果たした役割は、ただの「主役としての座長」ではなく、その時の一座全体を統括して運営する「座頭(ざがしら)」であった。座頭は主役を張るだけでなく、演出・脚本も自ら行う上に、共演者の健康や金銭問題までも管理する、まさに「頭」である。
「私はずっと座頭をやってきました。立ち回りも自分でつけて、興行の責任も自分でとって。芝居の幕が開いてからでも問題を抱えた奴がいたらすぐに楽屋に呼んで処理しないといけない。
それから気を使ったのは、お客さんの感想ですね。たとえば『今回の芝居はよかったよ』と言って帰った時は、『今回は大失敗だった』と思います。お客さんはとりあえず『よかった』って言って帰るんです。『悪かった』なんて誰も言いませんから。そこで役者が乗せられて、その気になっちゃったらダメなんですよ。
『役者殺すに刃物は要らん。拍手の一つもすればいい』っていうこと。『今回の芝居は刺激的でした』『感動しました』と言って帰った時『よかったそうだよ、みんな』と伝えています。
自分を戒めるどころじゃないですよ。私が生きてきた道は茨の道ですから。前に道があるのではなくて、自分が行くから道ができるんであって。
切り開くのは大変ですよ。楽屋を出る時に『みんな、今日が俺の命日だ』って言って、舞台に上がっていました。実際に二、三回は死のうと思いました。自分に対して追いつめて、追いつめて、『もうやっていけない』となってしまいましてね」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。
※週刊ポスト2014年5月9・16日号