TPP妥結が近くなり、とかく弱いと言われてきた日本の農業のためにどうやって関税を守るかという点に話題が集まりがちだ。しかし、本当は日本の農業は、総産出額が8兆5251億円(2012年)の規模を持つ巨大産業だ。十分に世界で勝負できる力を持っているが、すすまぬ農政改革のため海外進出は志のある農家の力に頼っているのが現在の状況だ。
世界で今以上に日本の農産物を買ってもらうには、高品質に加え、やはりコストダウンが必要だ。そのためには農地の大規模化は必須だが、それが遅々として進まない。
安倍政権は農業の規模拡大のため、「農地中間管理機構」(集積バンク)を新設して農地の集積・集約を進めるとしている。機構が農家から農地を借り上げ、整備・大区画化して大規模農家などに貸し付ける仕組みだ。これまでも農地保有合理化事業という似たような仕組みはあった。しかし、大規模化は進まなかった。
原因は、それと矛盾する政策が取られたからだ。減反政策である。『日本の農業を破壊したのは誰か』(講談社刊)の著者でキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁氏はいう。
「日本では供給を調整する減反政策で高い米価が維持されているので、零細な兼業農家でも農業を続けられます。しかも農地を宅地などに転用すると莫大な利益が転がり込むとの期待から、農業をしないのに農地を手放さない『土地持ち非農家』も多い。
さらに農地の固定資産税は低く、農業を継続すれば相続税や贈与税が免除される優遇措置まであります。兼業農家や土地持ち非農家にとって、農地は農業のための生産資本ではなく、単なる資産になっています」
安倍政権は減反政策の見直しを決定。これまで減反に応じる農家に10アールあたり年1万5000円支給していた補助金を今年度から7500円に半減させる。だがこれはまやかしだ。減反のかわりに家畜向けの飼料米に転作する補助金をこれまでの10アールあたり年8万円から最大で年10万5000円に増額した。これでは水田を手放す農家が増えず、大規模化が進まない。