【書評】『ぷくぷく、お肉』赤瀬川原平ほか/河出書房新社/1728円
【評者】山本光子(ブックファースト三宮店)
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一定の周期で、ものすご~くお肉が食べたくなることってありませんか? そんなときはもう、「肉!肉!肉!野菜なんかいらんのじゃ!」と野獣のように、肉に飢えた状態になります。この本を読んだときの自分がまさにそれでした。
本書はステキなタイトルからわかる通り、「お肉」にまつわるアンソロジー・エッセイ。さまざまな作家がお肉をテーマに描く、まさに文章による肉汁オン・パレード。こんな大胆なテーマのアンソロジーは他にはないのでは? でも、決して色モノとは思うなかれ。掲載作家は錚々たるメンバーです。
例えば、阿川佐和子さん(スキヤキ)、池波正太郎さん(とんかつとカツレツ)、久住昌之さん(焼肉)、伊丹十三さん(ロースト・ビーフ)、吉本隆明さん(豚ロース鍋)など、読み応えのある作家ばかり32名。切り口はバラエティーに富んでおり、ただのグルメエッセイとは一線を画します。
例えば川上未映子さんは、ふと入ったお店で、とんかつに添えられたみずみずしいキャベツを見て、今はもういない友人のことを思い出してしまいます。そういえばあの子、生野菜は体を冷やすからダメだって言ってたっけ…せつなくて素敵な一編です。
また、喜劇役者・古川緑波さんは独特の文章で、大正から昭和にかけての「関東牛鍋」対「関西すき焼」について小気味よく語ってくれます。
数あるエピソードのなかで、特に私が「そうそう!」とはげしく同意してしまったのが、東海林さだおさんの豚肉の生姜焼きについての一編。
内容はズバリ、豚肉の生姜焼きがいかにゴハンのおかずとして優れているか。その名に関する考察から始まり、生姜焼きのタイプ、つけ合わせや白ゴハンとのからみなど、面白おかしく熱く説いています。その秀逸さについてはここでは語り尽くせませんが、代わりにひとこと。「私は本書を読みながら、がまんできなくなってつい生姜焼き定食を食べに行ってしまいましたよ!」
本書は、そんな「肉」への愛で詰まった文章をモリモリ堪能させてくれます。さらに嬉しいことに、各エピソードに登場する店のいくつかは実際に営業しているので、作家たちが愛した味を食べに行くのもひとつの楽しみ方です。さて、仕事も終わったし、友達誘って今日は焼肉行くぞ~。
※女性セブン2014年5月22日号