昨年末、医療基準などを研究・策定するアメリカ共同国内委員会が高血圧の基準値を緩和する新指針を発表したことが、アメリカで大きな話題となっている。これまでの指針では、血圧は60歳以上なら「上(収縮期血圧)が140、下(拡張期血圧)が90」を超えれば降圧剤などの治療が必要としてきた。しかし、今回、「上が150」にまで一気に引き上げられたのだ(下は90のまま)。
しかも、この高血圧のガイドラインが適用されるのは60歳以上だけ。30~59歳の国民については、下が90を超えれば高血圧とされるが、上の血圧値については、「科学的根拠がない」として、基準値そのものが設定されなかった。
30歳未満の若年層にいたっては、上も下も含めて基準値の設定自体が見送られ、「血圧を下げる必要はない」と判断されたのである。
さて、日本の場合はどうか。高血圧学会が策定したガイドラインでは、年齢に関係なく、一律に「上が130以上、下が85以上」なら「血圧が高い」と判断される。アメリカの基準に比べて、圧倒的に「異常」と認定される範囲が広いのだ。
高血圧や高脂血症、糖尿病などの予防治療を専門とする医学博士で新潟大学名誉教授の岡田正彦氏がいう。
「そもそも、全身に血液を送るポンプの役割を果たしているのは、心臓と血管です。加齢とともにどちらもその機能は衰えてくるため、年を取るほど血圧が高くなるのは自然なこと。
ポンプ力(血圧)を高めなければ、血液を体の隅々にまで運ぶことはできませんから。高血圧の基準を年齢に関係なく一律に設けると、こうした自然な摂理を無視し、本来は必要のない人にまで薬を処方することになる。
しかも、高血圧治療薬の最大の副作用は血圧が下がりすぎること。その健康への弊害について、日本人は驚くほど知らされていないのが現状です」
※週刊ポスト2014年5月23日号