JTB中部多治見支店の男性社員(30才)が、高校の遠足用のバス11台を手配し忘れたのを隠すため、生徒を装って自殺をほのめかし、遠足の中止を求める手紙を高校に届けた事件。5月5日、男性社員は偽計業務妨害罪で逮捕され、同日付で懲戒解雇になった。
そもそもの失敗は単純な手配ミス。それが当の本人の逮捕につながり、へたをすれば会社に旅行業の登録停止や業務停止などの行政処分も下る事態に発展。業界最大手であるJTBの、新人でもない社員が起こしたこの事態に“ありえない”と思うのも当然だが、「他人事じゃない」という声もある。
人というものは、ミスをするもの。しかし、不祥事やミス、それを隠蔽しようとする事件は後を絶たない。精神科医で「ゆうメンタルクリニック」(上野、池袋、新宿、渋谷、秋葉原)総院長のゆうきゆうさんは、ミスをした人の精神状態を次のように分析する。
「追い詰められ、嘘をついてしまうことは誰にでもあることですが、自己保身で嘘をつくのは、何かに責任転嫁するため。今回の場合、自分の評価が落ちることを恐れるあまり、生徒になりすますことで“学校内の問題”で済めば、失敗がバレないと思ったのではないでしょうか」
危機管理コンサルタント会社リスク・ヘッジ代表の田中辰巳さんは「このようなケースは、実はどこの会社でもある」と指摘する。
「企業の危機管理には、予防的な“リスクマネジメント”と事後対応の“クライシスマネジメント”がありますが、今回はその両方が機能していなかった」
リスクマネジメントでいえば、社員のバスの手配状況を、上司らが把握していなかったことが挙げられる。
「学校からの問い合わせ後に発覚したのも、総力を挙げて起きた問題に対処すべきクライシスマネジメントとしてお粗末」(田中さん)
社内の雰囲気や状況にも問題があったのでは、と勘ぐりたくなるような企業体質に加え、「この手のミスは現代病ともいえる」と田中さんは言う。
「企業でコンサルタントをしていると、若い人が同僚や上司に言わずにミスや情報を抱え込んでしまう傾向があるのに気づきます。少子化や核家族化で、人とかかわりを持って物事を進める機会が少ないまま社会人になっている人が多い。飲み会やカラオケなど業務外でコミュニケーションをとることが少なくなったことも関係しているのでは」
一方、前出のゆうきさんは、個人の資質が大きく関係すると語る。
「成長する環境において、“間違いが許されない”というプレッシャーをかけられ続けた人の場合、経歴に傷がつくことや、不利な立場に置かれることを極端に恐れる傾向がある。普段から知ったかぶりをしてしまう、他人からミスを指摘されてつい言い訳してしまう人は、注意が必要です」
※女性セブン2014年5月29日号