「熟年離婚の場合、具体的な不満やきっかけがあるというより、夫の存在自体に嫌悪感を持ってる人が多いですね」
と話すのは、年に約300件の離婚相談を受けているという、丸の内ソレイユ法律事務所代表で『悩む前に知っておきたい離婚の手続き』(日本文芸社刊)などの著書がある弁護士の中里妃沙子さんだ。読者の中にも、思い当たる人がいるかもしれない。しかし、いざ離婚となると、相手ともめて泥仕合になるなど大変なイメージが強く、踏み出せないもの。
「相談に来られるかたも、“夫がいかに悪いか”ということを延々と話す人が多いです。しかし、実際に離婚するに際しては、過去に夫婦に何があったかよりも、将来を考えることが大事。“キレたら負け”と心得て、冷静になることが重要です」(中里さん・以下同)
その上で、熟年離婚で大切なのは「お金に関すること」だと強調する。
「離婚成立には、夫婦双方が同意することがまず必要。合意があればお金などの条件を話し合いながら離婚協議書の作成を目指します」
相手が合意しない場合でも、離婚できないわけではない。
「相手方の合意がなくても、法律上の離婚原因があれば、裁判によって離婚が認められます。一見、法律上の離婚原因がない場合であっても、3~5年くらい別居していれば、離婚が認められる場合も多いので、どうしても離婚したい場合は、まずは別居するというのも手です」
別居中は夫から婚姻費用(夫婦が結婚生活を続けるために必要な費用のことで、主に生活費)をもらうことができる。金額は夫と妻の年収を基準にした算定表をもとに裁判所が決定する。
「別居後、すぐに就職できるわけではないので、婚姻費用は専業主婦の強い味方です。しかも、相手は別居が長引くほど婚姻費用を支払い続けなければならないので、離婚に同意しやすくなります。夫が生活費の支払いを渋ってきたら、直ちに家庭裁判所に婚姻費用調停の申し立てをしましょう。専業主婦の方が、働いているよりも、婚姻費用は高くなる例が多いです。主婦って、発想を転換すれば、思っている以上に強い立場なのです」
また、夫が浮気をして、相手と一緒になりたいと思っているなど、夫から離婚を切り出された場合はどうすべきか?
「どちらかが離婚を切り出した場合、一方がどんなにあがいても離婚に至るケースがほとんど。ですから、落ち込んでいるばかりではだめです。頭を切り替えて、“今すぐ離婚したいなら、○○万円ちょうだいね。
私の希望をかなえてくれるならば離婚してあげてもいいわよ”と、慰謝料や解決金など、逆にこちらの希望を要求すればいい。相手方からの多少のディスカウントは予想されますが、早く離婚したい相手ほど、こちらの条件をのむでしょう」
先に離婚を言い出した方が不利と考え、良い条件を引き出せるよう交渉に臨むべきだ。
「ちなみに、離婚原因に多い“性格の不一致”では、慰謝料をもらうことはできません。慰謝料は相手の不貞行為が明確にあった場合などです。裁判になった場合の慰謝料の相場は、もちろん例外がありますが、おおむね200万円が上限といったところです」
離婚が頭をよぎる瞬間は、つい感情的に考えてしまうもの。しかし、「主婦が最強」と知った今、夫への不満や怒りも客観的に考えられそうだ。
「離婚を成功させるには、冷静になって自分が主体的に動くことが大切なのです」
※女性セブン2014年5月29日号