東大野球部は一体いつ、この長い、長いトンネルから抜け出せるのか。いつまで暗闇を彷徨い続けるのか。しかし、そんな“史上最弱”のチームに温かいエールを送る人々がいる。
もはや緊張の糸が切れたのか。5月3日、東京六大学野球の第4週第1日、東大が早稲田に0対11で負け、ついに自身の持つワースト記録を更新する71連敗を喫した。翌日も早稲田に0対14と大敗。第5週も立教に0対7、2対14と連敗し、不名誉記録は74に伸びた。
「去年まではシーズンに少なくとも1試合は1、2点差の接戦がありましたが、今春はどれも7点以上の差をつけられる大敗ばかりで、勝利の尻尾すら見えません」(スポーツ紙記者)
もはや今季の全敗は既定路線。来秋にはいよいよ100連敗が見えてくる。
だが、そんな状況が東大への関心を高めたのか、試合ごとに神宮球場の東大応援席は熱気を増す。そこには応援団やチアリーダーに加え、一般の人々も多い。実は現役東大生は少数派だ。
「現役学生は、せっかく応援しても惨敗する野球部に愛想を尽かし球場に来なくなった。だけど俺たち東大とは縁もゆかりもない大学野球ファンにとっては、東大は他のどんな大学よりも応援しがいのあるチーム。
だってそうでしょ、めったに勝てないってことは、そのたった1勝は他大の優勝よりも貴重なことなんだから。ノーヒット・ノーランを目撃するのに匹敵する。たった1球に絶叫して、たった1勝に号泣する。
おおくのファンが東大と関係ないからこそ、神宮でだけ会える仲間として妙な友情が芽生えている。マゾヒスト同士の連帯感というか(笑い)。これが東大ファンでいることの醍醐味です」(50代の東大ファン)
そんなわけで、万が一(失礼)、点が入ったとき、応援席は異様に盛り上がる。たとえば、今春、唯一東大が得点した──しかも、東大としては珍しく、1回表に先制タイムリーが出た対立教第2戦のときがそうだった。年配のファンが絶叫し、隣り合った見知らぬ者同士が抱き合い、手をつなぎ、跳びはねたのだ。
同様に、大量点を入れられたときも応援席のデシベルは一気に上がる。応援団長のリードのもと、「まぐれ! まぐれ!」と大合唱し、必死に励ます。十数点差をつけられ早々に試合が決まってもなお、東大ファンは声を合わせて叫び続ける。
「絶対勝つぞォ、東大!」
馬鹿な。どう考えたってせいぜい2~3点しか取れない東大にもはや勝利の可能性はない。それでもあきらめず、本気で声援を続ける応援席のファンと、彼らをリードする東大体育会応援団のメンバーだけは、神宮球場において他大を圧倒している。
いや、日本一のファンである。応援団の掲げる東大の校旗が神宮の空にはためく様は、一種厳かな雰囲気すら漂わせる。
※週刊ポスト2014年5月30日号