【書評】『秘宝館という文化装置』妙木忍/青弓社/2000 円+税
【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)
今年3月末、佐賀県の「嬉野武雄観光秘宝館」が閉館した。秘宝館とは、1970年代から1980年代にかけて全国の温泉地などに開館した〈性愛をテーマにした博物館〉のこと。
たとえば嬉野には、「男女竜交接の図」に始まり、「和合神社」「道祖神」「金精様」など日本古来の性信仰の象徴から、「スーハーマン」「アラビアのエロレンス」といったパロディの蝋人形に至るまで、さまざまな展示があった。
館内に漂う妖しい色気とおおらかなユーモアから、秘宝館は「大人の遊艶地」などと呼ばれる。最盛期には全国に20館ほど存在したが、1990年代以降に衰退し、今や熱海と鬼怒川の2館を残すのみとなった。
本書は、その秘宝館の誕生から衰退までを社会史として考察した論考だ。結論的に言えば、秘宝館は、モータリゼーションの進展を背景に誕生した。団体バス旅行が流行した時代に、そのおもな担い手だった年配男性客のための観光スポットとして登場したのである。
やがて余暇時間の増えた女性客もグループで訪れるようになった。だが、旅行の主流が個人旅行へと移り、娯楽が多様化したことなどで来場者は減少の一途を辿った。最初の秘宝館はある事業家の思いつきで作られ、そこには性病の症例模型、人体解剖模型、生殖器模型、妊娠中の母親の等身大人形と胎児の模型など、啓蒙用の医学模型も展示されていた、といった興味深い事実も記されている。
著者が撮影した秘宝館の展示物などの写真が100枚以上掲載されている。そこから覗えるレトロでチープな雰囲気はまさに昭和そのもので、見ていて飽きない。学者による真面目な論考だが、同時に昭和文化遺産に対するオマージュになっている。
※SAPIO2014年6月号