ここに「ハーバード・ビジネススクール教授訪日団の視察」と題された一枚の内部資料がある。米国の名門ビジネス・スクールであるハーバード大学経営大学院(以下、HBS)の教授陣18人が3月末から4月初旬にかけて、日本を訪れた際の視察報告である。
18人というのはHBSの教授陣全体の1割近い人数。来日の目的は、企業の現場視察や経営者への面会によって講義の教材や論文の材料を集めることだが、これほどの規模の来日は長い歴史をもつ同校でも初めてだという。
詳しい視察内容は極秘とされたが、本誌は彼らが回った企業名を入手した。HBS教授陣はニッポン株式会社のどこに注目したのか。
HBS教授陣の訪問企業を見ると、日本人自身も気づいていないような、日本企業への期待値や未来図が浮かび上がってくる。
まず意外なところでは、JR東日本テクノハートTESSEI。たった7分間で新幹線の清掃を完璧に終わらせる「お掃除の天使たち」として知られるが、HBSはその「おもてなし力」に注目する。同社には組織論やリーダーシップ論を専門とするイーサン・バーンスタイン助教授が視察に訪れた。
「掃除というのはきつい、汚い、危険のいわゆる3K仕事。でもTESSEIのスタッフはそこに『誇りをもって』『意欲的に』取り組んでいる。なぜそんなことができるか、という点にバーンスタイン先生は興味を持ったようです。
我々は単なるお掃除屋さんではなく、世界に冠たる新幹線のメンテナンスを請け負うスタッフなんだという意識で仕事に取り組んでいます」(同社おもてなし創造部顧問の矢部輝夫氏)
同助教授は東京駅の現場にも立ち会った。
「新幹線に入る時、つまり自分の職場に入る時に、スタッフは全員一礼します。お客様のいない車両基地で清掃する際にも、やはり礼をしてから乗り込みます。バーンスタイン先生はそういうところにも感心していた」(前出・矢部輝夫氏)
※週刊ポスト2014年5月30日号