旅客船セウォル号沈没事故での韓国メディアの過熱報道は、常軌を逸していた。事故直後、救出された人々が入院している病院に韓国テレビ局の記者が突入、助かった女子生徒に「友だちが大勢死んだのを知っているか?」と質問し、女子生徒が号泣するシーンが放送された。
生存者は自分だけが助かったことに罪悪感を覚えるもので、この女子高生は心的外傷後ストレス障害(PTSD)になり、失語症になったという。この残酷な仕打ちには、さすがに放送局に非難が殺到した。
韓国のメディアでは、韓国記者協会と国家人権委員会が定めた人権報道準則で、公人ではない個人の顔や氏名等の公開は制限されている。この取り決め自体は日本より厳しいものだ。
ただし、顔にモザイクをかけて匿名にさえすれば“何でもアリ”なのが、韓国メディアでもある。容疑者に対しては、逮捕の前でも後でもインタビュー可能。今回の沈没事故でも船長が逮捕されたときは、その直前にテレビカメラの前に引きずり出され、「国民の皆さまに申し訳ない」と頭を下げる姿を撮られた。そのまま船長は手錠を掛けられ逮捕された。また、船長は警察署の中でもテレビ局などからの取材を受けている。
日本メディアの韓国特派員はいう。
「話題になった殺人事件では被告人の腰縄姿や取調室の映像までも流れる。係官のテーブルの前でパイプ椅子に座った容疑者が、ジャンパーを頭に掛けてふさぎこんでいる映像は定番です。
だが、それが逆に作用することもある。2012年1月に、日本大使館に中国人が火炎瓶を投げた事件では、容疑者が『祖母が慰安婦で、野田首相が責任を取らないためにやった』と主張したため、メディアが殺到し、事情聴取の合間にインタビューで犯人の言い分を垂れ流していた。検察に移送されるときも待ち構えていた記者がインタビューをとる。このときには、手錠にはモザイクがかけられていました」
※週刊ポスト2014年6月6日号