子役を経て早稲田大学第二文学部演劇専修へ入学、劇団を結成して演出家の故・つかこうへいさんと出会った俳優の風間杜夫は、主演した映画『蒲田行進曲』がヒットしたことで活躍の場所を広げていった。敵役として共演した故森繁久彌さんとの思い出を語る風間の言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる。
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風間杜夫は主役に抜擢された1982年の映画『蒲田行進曲』の大ヒット以降、テレビや映画の主要キャストに次々と起用されていった。1983年の東映正月映画『人生劇場』もその一つで、若山富三郎や松方弘樹を相手に若いヤクザ・宮川を演じている。
1985年の日本テレビ年末時代劇『忠臣蔵』では浅野内匠頭を演じている。この時の敵役・吉良上野介は森繁久彌だった。
「森繁さんは憧れの人でした。あの方の書かれた本のタイトルが『品格と色気と哀愁と』というんですが、それを座右の銘にしたいくらい、慕っていました。
セットの外で森繁さんはじめ共演者の皆さんと談笑していた時、『風間君はセリフを覚えてくるのかい』と森繁さんが聞かれてきたことがありました。『いや、そんな覚えてはきませんね。大体のことは把握していますが』と答えたら『それでいいんだ』と。
『セリフなんて覚えてきちゃダメだ。相手役がどういう芝居をするのかとか、現場で感じたことが大事なんだから。なまじキチッと覚えてきて、ちょっと変更されたらできない役者はいっぱいいる。それだったら、その場で動いた方がいい』とおっしゃる。それは怠けるためじゃないんです。本当にその通りだと思って、今でもあまり覚えていかないようにしています」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。
※週刊ポスト2014年6月6日号