ライフ

「語学留学」という風潮に落合信彦氏「意味あるとは思えない」

 昨今「語学留学」という言葉が多数取り沙汰されているが、これに対して異議を唱えるのが国際ジャーナリストの落合信彦氏だ。同氏は「国際」の本質をどう捉えているのか? 落合氏が解説する。

 * * *
 少し前からよく「語学留学」という言葉を耳にするようになったが、「言葉を学びに行く留学」に意味があるとは思えない。言葉を理解した上で海外に行き、留学先の国でしか触れられない哲学や歴史、政治や経済を学ぶからこそ、日本を飛び出す意味がある。

 留学先で英語を学ぶところから始めようとしても、行った先で遊びほうけたり、日本人留学生とつるんだりするのが関の山である。残念ながら私の時代からそういう日本人学生はたくさんいた(だから私は日本人学生のいないオルブライト大学を留学先に選んだ)。

 もちろん、実際にアメリカに足を踏み入れてから学んだ言葉も少なくなかった。まず私は西海岸にフェリーで到着して、そこから大学のあるペンシルヴェイニアまでヒッチハイクで移動したが、ラス・ヴェガスまで乗せてくれたのが中年の黒人トラック運転手のテレンスだった。彼の英語のアクセントには癖があったし、辞書には載っていないスラングもたくさん使っていた。目的地に到着し、別れ際に彼は私にこう声をかけた。

「Hey kid! You’ve got a bread?」

 パンは持っていなかったのでノーと答えると彼は財布から10ドル札を抜いて、「Here, take this」と言った。私はカネはあるから大丈夫だと丁重に断わったが、今の価値にすれば100ドルには相当する金額だったので驚いた。後で知ったことだが「bread」とは黒人のスラングでカネのことを指す。このトラックの車内のことは今でもよく覚えていて、コミュニケーションの面白さを改めて肌で感じた体験だった。

 言葉はその国や特定のグループの文化や歴史と不可分なものだ。スラングだけではない。同じ英語でも、例えば「red cap」はアメリカでは赤い帽子という意味だが、イギリスでは憲兵という意味になる。「one billion」はアメリカでは10億だが、イギリスではもともと1兆を意味した(最近になってイギリスがアメリカ式に合わせた)。なぜ違いがあるのかを調べていけば必ず歴史や文化に関連した教養を身につけられる。こんなに楽しい勉強はない。

※SAPIO2014年6月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

女性との間に重大トラブルを起こしていたことが判明した中居正広
《スクープ続報》中居正広、深刻女性トラブルの余波 テレビ局が収録中止・新規オファー取りやめ、『だれかtoなかい』の代役にはSMAPメンバーが浮上
女性セブン
《2025年の相撲界を占う》杉山邦博氏×やくみつる氏 次の横綱は琴櫻か豊昇龍か、期待の星・大の里の“直すべきポイント”
《2025年の相撲界を占う》杉山邦博氏×やくみつる氏 次の横綱は琴櫻か豊昇龍か、期待の星・大の里の“直すべきポイント”
週刊ポスト
「海老名きょうだい3人死亡事件」の犯行現場となった一家の自宅
《海老名きょうだい3人死亡事件》子煩悩だった母が逮捕 残された父が重い口を開いた「妻は追い詰められたんだと思います」「助けられなかった」…後悔の念
女性セブン
読者モデルとして
《薄メイクになった小森純が振り返る平成ギャル》読者モデル時代は「撮影中に彼氏と編集長が大ゲンカ」、妊娠を機に巻き髪はストレートに「カラコン入れると目が乾燥して」の現在
NEWSポストセブン
司組長も笑顔を見せた餅つきに密着した
《六代目山口組のハイブランド餅つき》「司だ、司!」警察が色めき立った瞬間 愛用率50%!直参組長らから支持される「冬のハイブランド」
NEWSポストセブン
小型の犬種は人気だが……(写真提供/イメージマート)
《クリスマス・イヴ翌日も…》プレゼント購入されたペットを「返品」する人たち 「彼女と別れたから」「サプライズプレゼントが気に入らないと言われた」
NEWSポストセブン
相模湖ふれあいパーク内で無許可で撮影が行われていた(FANZAより)
《公園で勝手にセクシービデオ撮影》行政は「許可は出していない」「警察に相談した」 外であられもない姿に…メーカーが緊急対応
NEWSポストセブン
トランプ氏と玉木雄一郎氏の共通点とは(時事通信フォト)
【“忘れられた人々”に光を当てた】玉木雄一郎氏が明かす“私とトランプ氏の共通点” 今求められているのは「働く人、納税者がきちんと報われる政治」
週刊ポスト
歌舞伎町のシンボルの一つにもなっているバッティングセンター。
「日本一土地代が高い」新宿・歌舞伎町のバッティングセンターはなぜ潰れないのか? 店が語った驚異の「1日の来場者数」と営業理念
NEWSポストセブン
吉本新喜劇の看板座員である島田珠代さん(撮影/井上たろう)
吉本新喜劇・島田珠代(54)が語る「事実婚状態のひろしさん」のこと セックスレスとの向き合い方、更年期障害の乗り越え方を赤裸々告白
NEWSポストセブン
東京で生まれ育ったタレント・三船美佳さん
《36歳で再婚と出産の三船美佳》「気持ちのすれ違いや誤解」乗り越え、20歳となった愛娘の旅立ち
NEWSポストセブン
バンコクの夜の街の様子
《1晩600万円の値付けも》タイ人・中国人富裕層が日本のセクシー女優に熱狂…「単価相談あり」日本人女性を巻き込む東南アジア“売春ビジネス”の実態
NEWSポストセブン