いま、最も旬な役者といえば? 作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏は、意外な俳優の名を挙げた。
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今春のドラマ「ロング・グッドバイ」(NHK)、「MOZU Season1~百舌の叫ぶ夜~」(TBS)、「花子とアン」(NHK)、「トクボウ 警察庁特殊防犯課」(読売テレビ)。全部に顔を出している人といえば?
そう、あの人。一度見たら忘れられない人。吉田鋼太郎さんです。
ものすごい売れっ子状態。それができる、ということはつまり、的確な演じ分けができるという証拠でしょう。
思い出すのは今から1年半ほど前の2013年冬ドラマ。深夜の「カラマーゾフの兄弟」(フジテレビ系)。「なんだこの人?」とぶっとびました。まさかここまで津々浦々にウケる役者さんとは、想像できませんでした。
理由があります。
「カラマーゾフの兄弟」で演じた父・文蔵役が、あまりに怖すぎたから。ちょっと触ったらヤケドしそうな怪演ぶりだったから。目をむき、声を響かせ、汗が飛んできそう。アクが強すぎる。テレビの枠からはみ出している、というか。
ざらざらしたノイズ、手触り感、カミソリのようなキレ、どっしりとした存在感。吉田さんの演技は、その意味でとっても「舞台的」でした。
芝居好きの私としては、吉田さんのような役者さん、大好きなのですが、まさか、こうもお茶の間に浸透するとは。ちなみに「カラマーゾフの兄弟」の平均視聴率はたった6.3%でした。
「MOZU」の中で恐ろしいと話題の、吉田さん演じる中神というキャラは、あのカラマーゾフの文蔵役から出発して変化したバージョンのように私には思えます。
「カラマーゾフの兄弟」の後、吉田さんは快進撃を見せ「半沢直樹」「七つの会議」と立て続けに池井戸ドラマに登場。文蔵とは180度テイスト感の違う、サラリーマン姿が新鮮でした。
そしていよいよ「朝ドラ」ときた。まさか、仲間由紀恵の夫になるとは……。こうなったらますます日本のドラマを深め成熟させる力強いエンジンになってほしい。
ただ、老婆心ながら……短時間に一気にスターダムに駆け上がると、短期間のうちにメディアに消費され尽くされ飽きられ姿を消す、というのは定石。ひろし、小島よしお、杉ちゃん、キンタロー。
「見ない日はない」くらい露出していたあの方々は今どうしているのでしょう。お笑い芸人と役者では事情が違うのかもしれませんが。
異端に見えて、吉田鋼太郎さんは芝居の王道・シェイクスピアやギリシア悲劇などで叩き上げ、蜷川幸雄演出の常連。しかも中年になってスポットライトを浴びたお方。ちょっとやそっとじゃ消費されないタフネスと信じたい。
そして、11面観音のようにいろいろな顔を演じ分ければ飽きられることもないはず。だから、熱いエールを送りたい。いっそ笠智衆のように枯れて枯れて枯れるまで、突っ走ってほしい! 吉田鋼太郎版「東京物語」が見られる、その日まで。