例えばわたし、10年にいっぺん倒れてるんですよ。世間では介護疲れだって騒がれたけど。まぁそう言えばそうやね。
やっぱり飛行機で九州に行こうとしてたときだったんです。私は向こうのホールでコンサートが決まっていた。そこに母も連れて行く計画だったんです。
車椅子もスーツケースも準備OK。あとは羽田に向かうぞ、という時、母が「あれが無い、これがない」と少しパニックになり、私も慌ててしまいました。母も飛行機というものに緊張してたんですね。
コンサートの時間は迫るし、とりあえず落ち着こうおもて、私は安定剤を一粒飲んだんです。でも全然効かない。ダメやんって思いながら2粒飲んで、3粒飲んで、気がついたら病院に運ばれてたんですわ(笑い)。
やっぱりどっかでムリしてたんでしょうね。今はムリせんように、おむつなり他人の手なり、手に入るもんは全部使ってやってます。結局それが私にも母にも幸せだってことです。
◆綾戸智恵(あやど・ちえ):1957年大阪生まれ。17歳で単身渡米。1991年に帰国後は、数々の職業を経験しながら、大阪のジャズ・クラブで歌い始め、1998年に40歳でメジャーデビュー。2004年からは認知症の実母の介護を続けている。
※週刊ポスト2014年6月6日号