5月15日に衆院を通過し、今国会の成立が確実になった「医療・介護推進法案」が日本の介護を大きく変える。
2000年にスタートした介護保険の理念は「家族だけでなく社会全体で介護を支える」だった。しかし、高齢化の進行で2010年度に7.8兆円だった介護費用は2025年度に21兆円に増加する推計で、“経費削減”のため国はこの理念を捨てて、“改悪”に走った。市民福祉情報オフィス・ハスカップの小竹雅子さんは、「今回の改正はサービスの抑制を狙ったもの」と強調する。
新しい介護保険制度は2015年4月から2017年3月までに全国の市区町村で実施される。この先、どのような地獄が私たちを待つのか。改正のポイントとともに解説する。
国は年金年収280万円以上を「高額所得者」として、介護保険の自己負担を1割から2割に増やす方針だ。しかし、この層は高齢者の5人に1人にあたり、決して高額所得者ではない。
現在、在宅サービスの平均的な利用料の目安は「要介護1」の月7700円から段階的に高額になり「要介護5」では2万1000円。これらが一気に倍に跳ね上がる計算だ。全国に1万人以上の会員がいる「認知症の人と家族の会」の小川正事務局長はこう話す。
「もちろん、一定の収入がある人にはより多く負担してもらいたいですが、年収280万円という線引きは低すぎる。年収300万円未満と億万長者が一括りであることも納得いきません。現在、介護認定を受けても介護サービスを利用しないかたが約100万人いますが、負担倍増でさらに多くの人が利用をあきらめるでしょう」(小川事務局長)
現在、「要介護1」から利用できる特養の新規入所が原則「要介護3」以上になる。国は自治体の判断で「要介護1・2」でも特養入りは可能とするが、その条件は厳しい。現在、52万人に及ぶ“特養待ち”を費用削減のため、国は何としても減らしたいからだ。
市民福祉情報オフィス・ハスカップの小竹雅子さんはこう話す。
「現在、必死で在宅介護を続けるかたたちは、『いざとなったら特養へ』という思いを支えにしています。『要介護2以下は門前払い』となれば、最後の頼みがなくなってしまい、心理的な負担も大きくなりかねません」
必要なのに特養に入れない場合、費用が高い有料老人ホームなどに託さざるを得ない。でも、お金のない人は、家族が看るほかないのだ。結局、負担を一身に背負うのは、主に女性なのだ。
「介護を担う家族の経済的、身体的、心理的負担が増せば、現在も頻繁に起きている高齢者虐待や介護殺人、介護心中が増えかねません。介護保険の利用者は男性より長寿の女性が多く、家族介護者の7割は女性です。介護問題は女性問題でもあるんです」(小竹さん)
※女性セブン2014年6月12日号