昨年、厚生労働省が発表した全国調査によって約2800万にもの人が苦しんでいると判明した「腰痛」の多くは、原因がはっきりしないこともあり様々な治療方法が広まっている。温熱療法や電気神経刺激療法、兼任療法などは本当に効果があるのか、ジャーナリストの鵜飼克郎氏が報告する。
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腰痛には医療機関で温熱療法や電気神経刺激療法、牽引療法などを受けることも多い。ところが、研究論文の蓄積をもとにまとめられた日本整形外科学会・日本腰痛学界が発表した最新の『腰痛診療ガイドライン』(2012年11月)では「エビデンスが不足している」などと指摘されている。
例えば患部を温める温熱療法は、急性の腰痛患者に対しては一部で有効性が見られるものの慢性腰痛に対しては「質の高いエビデンスは存在しない」という。温湿布などについても同じだ。また脊髄を通る神経に微弱な電気を流す電気神経刺激療法は、海外で複数の研究が行なわれたが結論が分かれている。
「腰痛治療を専門とする医療機関でよく見かける牽引器具は、使った患者と使わなかった患者で痛みの緩和や可動域の拡大に有意な差は認められていません。硬い背骨に牽引したぐらいで変化が起きるとは考えにくい。
マッサージ効果によってその場限りでは楽になる人もいるかもしれませんが、アメリカの治療ガイドラインでは、『牽引は効果がないばかりか、害があるので止めたほうがいい』とまで指摘されているので注意が必要です」(白土修・福島県立医科大学会津医療センター教授)
腰椎コルセットについても、身体動作は改善されるが痛みの改善に効果があるというエビデンスはない。
※SAPIO2014年6月号