5月29日、安倍晋三首相は北朝鮮が拉致被害者の全面調査を約束したことを明らかにした。金正恩第一書記がそこまで日本に譲歩する背景には、北朝鮮の経済と外交の窮状がある。経済的には、金正恩氏が親中派の叔父の張成沢氏とその一派を粛清したことに怒った中国側が北への物流をストップ。いまや首都・平壌にもスラム街やストリートチルドレンが出現するほど困窮している。
外交的にも四面楚歌の状況だ。『コリア・レポート』編集長の辺真一氏が指摘する。
「金正恩は庇護者だった中国と事実上の“冷戦状態”にある。韓国との関係も最悪で、アメリカとは核開発をめぐる6か国協議再開のめども立っていない。とくに中国の習近平・国家主席が自分よりも先に韓国の朴槿恵・大統領を中国に招き、韓国訪問まで計画していることに“軽んじられた”と腸が煮えくりかえっている。
そこに風穴を開けるには日本との関係改善しかない。そうすれば経済援助という実利だけではなく、習主席より先に、安倍首相と会談することになり、中国に一矢報いることができる」
6月に拉致被害者の特別調査委員会が立ち上げられ、1~2か月で外相会談による北朝鮮からの調査結果(生存者リスト)の提示。そして、早ければ8、9月にも安倍訪朝の可能性があるというのが辺氏の見方だ。
今回、スウェーデンでの局長級協議に入る前に、日朝政府は水面下交渉で、「拉致再調査と制裁解除」を合意していたフシもある。
かつて人や重要物資を積んで日朝間を往復してきた「万景峰号」は、2006年の経済制裁で日本が寄港を拒否して以来、北朝鮮南部の元山の港に停泊し、老朽化して“スクラップ寸前”の状態に置かれていた。ところが、この5月上旬、万景峰号は北部の自由貿易都市「羅先」に回航した。北朝鮮の政府関係者が明かす。
「羅先のドックに入れられ、大規模補修工事に取りかかっている。というのも、共和国政府は、安倍政権が船舶入港禁止措置を解除することは確実と判断していたからだ」
※週刊ポスト2014年6月13日号