新聞、テレビで詐欺被害報道に接するたびに、なぜ騙されるのかと思わされるが、今は第二次オレオレ詐欺ブームといってもよいほどの被害規模だという。都内在住の女性Nさん(72歳)宅の電話が鳴ったのは昨年夏のことだった。
「母さん? オレだけど、実は困っちゃって」
声色の違いよりも、口調の速さに違和感を覚えた、とNさんは語る。電話の向こうの“息子”は、会社の先輩に連れられて行った違法カジノで50万円の大損をし、今すぐそれを支払わなければならないと訴えた。といっても、電話機のナンバーディスプレイに表示されているのは、知らない携帯番号だ。
それを問うと即座に「会社用の携帯だよ」と返ってくる。相手のこなれた対応にNさんは、オレオレ詐欺だな、とピンと来た。そして「そんなお金はうちにないわ」と受話器を置いた。
直後に、再び電話がかかってきた。電話の主はいう。
「警察の者ですが、今、怪しい電話がありませんでしたか?」
Nさんは、捜査への協力を求められた。詐欺犯を検挙したいので、騙されたフリをしてもらえないか、お金はすぐに戻ってくる、と。最初は戸惑ったが、警察の要望を断わるわけにはいかないと思って引き受けることにした。再び、“息子”からの電話が鳴る。
「早く払わないとカジノを仕切っている暴力団に何をされるかわからない」
その演技に呆れつつ承諾した。同日の午後、お金を受け取りに来た部下を名乗る男に50万円を手渡す。
ところが、だ。その後、“警察の者”から捜査に関する連絡はない。電話をかけてもつながらない。そこに至ってようやくNさんは気がついた。あの“警察の者”もオレオレ詐欺の一味だったのだ、と。
オレオレ詐欺や架空請求など、電話やメールを使って現金をし取る特殊詐欺の被害額が、2013年に過去最悪を記録したことを警察庁が発表した。その額は約490億円にも上る。金融機関の協力で、水際で食い止めた約193億円と合わせると、なんと約683億円。東京スカイツリーの事業費(約650億円)を超える規模の被害額だ。
なかでも深刻なのが、オレオレ詐欺の被害である。一昔前に流行った印象だが、近年、再び被害を増やしているという。
「詐欺にも流行があります。約10年前に電話を使ったオレオレ詐欺が流行り、その後、出会い系メールを用いた架空請求が主流になり、次に出てきたのは『必ずかる』と言って未公開株や社債を買わせる詐欺でした。そして今は、“第二次オレオレ詐欺ブーム”といっていい状況です」(警察庁関係者)
オレオレ詐欺の1件当たりの被害平均額は、361万円。“第一次”と異なるのは、単独犯ではなく組織ぐるみの犯行が目立つことだ。冒頭のケースのように、「劇場型詐欺」も珍しくはない。
※週刊ポスト2014年6月13日号