根本的な治療のない認知症において最近、一部に“治る認知症”があることがわかってきた。
「歩行障害や尿失禁が併発している認知症の症状の場合、実は手術で治ってしまう可能性がある」
そう話すのは、脳神経外科専門医の東京共済病院・桑名信匡院長だ。同氏が指摘するのは、iNPH(特発性正常圧水頭症)という病気によって引き起こされる認知症だ。発症原因は未解明なのだが、脳と脊髄の表面を循環する脳脊髄液が過剰になり、脳を圧迫して歩行障害や認知症を引き起こすというもの。iNPHにかかった患者は、80%が認知症の症状を来す。
だがiNPHが通常の認知症と違うのは、手術によって「治る」ということだ。
「幸いiNPHは治療法が確立している。腰部を切開して行なう『L-Pシャント手技』という手術で、過剰な髄液を体内から抜き取ると症状は劇的に改善する」(同前)
東京共済病院での手術例では、立つこともできなかった人が歩き出したり、声をかけても何の反応もなかった人が明るく会話を始めたりと、別人のように回復したケースさえあるという。
問題は、iNPHは症例が少ないため、アルツハイマー病と誤診されるケースが多いことだという。
「認知症=アルツハイマー病という誤った認識は、医師の間でも根強い。何の効果もない治療を続けながら、薬の副作用などで、逆に体を壊してしまう恐れもある」(同前)
桑名氏によれば、日本の高齢者全体の中で、iNPH患者は1.1%ほど存在すると推定されている。“治る認知症”が、見逃されてはいないか。
※週刊ポスト2014年6月13日号